五月に、一団の人々が伊藤のご隠居を第一病院から連れ出して以来、伊藤のご隠居の病状は奇跡的に良くなった。
それ以来、伊藤のご隠居は病院に行くことはなかった。
その一団は姿を消し、伊藤明城が密かに育てた家臣を派遣しても、何の手がかりも見つからなかった。
彼はその一団が伊藤のご隠居の昔の戦友の誰かが派遣した可能性が高いと疑っていた。おそらく松本鶴卿だろう。
伊藤のご隠居は若い頃に多くの人と知り合い、年を取ってからはほとんど会うことはなかったが、お互いの友情は減ることはなかった。結局、彼らは生死の境を共に乗り越えてきたのだから。
伊藤のご隠居の病気が良くなり、明城は喜んでいるのか苛立っているのか自分でも分からなかった。
もう半年近く、伊藤のご隠居の体調に問題はなかったのに、なぜ突然病院に入院したのだろうか?
「お父様が?」伊藤夫人は驚いた。「どうしたの?」
ここ数日、伊藤のご隠居は伊藤家にはおらず、鈴木家に滞在していた。
彼らも文句は言えなかった。結局のところ、伊藤のご隠居と鈴木のご老人は親密な関係で、昔は兄弟のように親しかった。
「電話では詳しく言わなかった」明城はすでにドアを開け、急いで歩き出した。「とりあえず様子を見に行こう」
伊藤夫人は慌ててバッグを持ち、彼に続いた。
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15分後、明城と伊藤夫人は第一病院に到着した。
しかし夫婦が意外だったのは、伊藤のご隠居がICUではなく、一般病棟にいたことだった。
主治医がちょうど病室から出てきたところだった。
「先生」明城は近づいた。「父はどうですか?」
「大きな病気ではありません。ご老人は他の高齢者のような高血圧などもありません」医師は聴診器を外した。「疲れすぎて、歩いている時に気を失っただけです。もうすぐ目を覚ますでしょう」
「疲れすぎた?」明城は眉をひそめたが、安心した。「中に入って見てみます」
しかし彼が一歩踏み出したとき、主治医に止められた。「ご老人は今休息が必要です。邪魔しない方がいいでしょう」
明城は足を止め、表情に感情を表さなかった。「では外で待ちます」
伊藤夫人は彼と一緒に待った。
主治医は彼らがそう主張するのを見て、もう構わずに下がった。
病室には伊藤のご隠居だけでなく、鈴木のご老人がベッドの横に座って付き添っていた。