290 世界に唯一無二、会う資格すらない【3更】

伊藤明城は自問自答した。彼は確かに伊藤雲深のことを少しも好ましく思っていなかった。

伊藤のご隠居の偏愛は、東京中の誰もが知るところだった。

伊藤一塵はもちろん、明城でさえ今でも理解できなかった。二十年前にあんな事件があったのに、ご隠居はいまだに雲深に対してとても優しかった。

明城は時間を確認し、ビーマンのマネージャーとの面会まであと十分あることを確認すると、そのまま外に出た。

雲深はエレベーターに向かって真っ直ぐ歩いており、両側を見ることもなかった。

明城の眉はさらに深くしかめられ、声をかけた。「伊藤雲深。」

雲深の足が一瞬止まり、少し顔を横に向けた。

彼の瞳は薄い琥珀色で、日光の照射を受けると普段の怠惰さが消え、冷たさが増していた。

明城は早足で近づき、声を低くした。「お前はちゃんとした仕事をすることはできないのか?お爺さまはお前に大きな期待を寄せているのに、お前は毎日遊んでばかりで、老人の心を冷やしているんじゃないのか?」

ご隠居は雲深を甘やかしすぎていた。

伊藤家は武門の出ではないが、ご隠居は軍人出身で、すべてのことに厳格で厳しかった。

明城と彼の兄弟姉妹たちも、幼い頃からエリート教育を受けてきた。

伊藤家が四大名門の首位を安定して維持できているのには、理由があった。

残念ながら、伊藤家には雲深という存在があった。

雲深は片手をポケットに入れ、軽く頷いた。「お爺さまの顔を立てて、あなたの話を最後まで聞きましょう。」

「お前は——」明城は息を詰まらせ、思い切って本題に入った。「お爺さまが御香坊をお前に譲るつもりだが、知っているか?」

「お前は調香も香水も分からない。もし金だけが目的なら、契約を結ぼう。御香坊を私に譲れば、伊藤集団の株式2%を渡す。ずっと金を得られる。もし御香坊がお前の手に渡ったら、何ができる?結局は家業を潰すだけだろう?」

明城は首を振り、冷たく言った。「御香坊は伊藤家の百年の基業だ。お前がそれを潰したら、お爺さまにどう顔向けするつもりだ?」

御香坊で新しい香膏と香水をデザインする調香師は、彼が招いたものだった。

そうでなければ、御香坊はビーマンの目にも留まらなかっただろう。

すべての利益を雲深に渡すなど、彼にはできなかった。

雲深は口元を少し上げ、再び怠惰な様子に戻った。「話は終わりましたか?」