第236章 契約の傷(5)

電話を切ると、斎藤遥はタバコに火をつけ、高層ビルの頂上に立ち、床から天井までの窓ガラスを通して、蟻のように行き交う車を眺めた。皆、急ぎ足で、それぞれが自分の物語の中で生きている。喜びや悲しみを抱えながら。そして傍観者は、ただそれを見つめるだけ。冷淡に、あるいは無力に。

長い時間が経ち、傍らの灰皿はタバコの吸い殻でいっぱいになり、広大なオフィスは煙に包まれていた。

「斎藤部長、これらの書類は…」鈴木瑛子が書類の束を抱えて入ってきたが、オフィスの煙に咳き込んでしまった。

しばらくして、煙の中から遥はゆっくりと窓から身を翻し、淡々と言った。「ショッピングモールの店舗を見てくる。ここを片付けておいてくれ」

そう言うと、手のタバコを消し、椅子に置いてあったジャケットを肩にかけ、外へ向かった。

「斎藤部長、こんにちは！」

専門店の店員たちは大ボスが自ら店舗視察に来たのを見て、皆ピンと背筋を伸ばし、顔には標準的でプロフェッショナルな笑顔を浮かべながらも、緊張で少し硬くなっていた。

遥の視線が動き、ユリの花の下着セットに留まった。静かに近づき、ゆっくりと手を伸ばして衣服の花に触れると、彼の脳裏にはあの女性と踊った時の艶やかな姿が浮かんだ。きらめくダイヤモンドのスカートが彼の前で華麗な弧を描いて回転した時の、彼女の顔に浮かぶ弾むような笑顔。彼女が柔らかく彼の肩に寄り添い、小さな声で「遥、プレゼントありがとう！とても気に入ったわ」と言った時の水のような優しさ。思い出すのは、いつも彼女の良いところ、彼女の美しさばかり。昨日病院での彼女のナイフのような言葉は、一言も思い出したくなかった。

「ユリの花の色は全部撤去して」長い沈黙の後、皆を震え上がらせるような静寂の中で、遥はこのような不可解な命令を下した。

しかし大ボスの命令は、理解できなくても即座に実行しなければならない。そのため、皆は店長の指示のもと、手早くユリの花の色のサンプル衣装を下げ、ボスのさらなる指示を待った。

「返品した商品は倉庫から私のオフィスに送るように」遥が振り返ると、カウンター全体の店員が緊張した面持ちで彼を見つめていることに気づいた。