第280章 男と女と子供(2)

飛雨は急いで田中大樹を呼び、その夜のうちに佐藤若菜を病院に連れて行った。

翌朝。

「どうなっているんだ、一晩経っても二指しか開いていないじゃないか？」

「陣痛促進剤を使いましょう。分娩時間が長すぎると胎児に良くありません。」

分娩室内では、医師や看護師たちが手順通りに仕事をしていた。出産というものは、彼女たちにとってはあまりにも日常的な光景で、産婦たちの恐怖や悲鳴は当たり前のことだった——痛い？どの産婦もこの痛みを乗り越えてきたのだから！

「あぁ——美織、死ぬほど痛いわ、あとどれくらい痛いの？」陣痛の合間に、若菜は息を切らしながら橘美織の手をきつく握った。

「もう少し頑張って、四指まで開けばだいぶ楽になるわよ。」美織は片手で彼女の手を握り、もう片方の手でタオルを持って汗を拭いてあげた。

「美織、斎藤遥に会いたい！」若菜は涙目で美織を見つめた。

「今から来ても間に合わないわよ。言うこと聞きなさい！電話をかけて、話だけでもさせてあげるから！ね？」美織は心の中でため息をついた。今になって、男を恋しがるなんて！

「うん。」若菜は力強くうなずいた。

彼女の哀れな様子を見て、美織は自分が当時もこんな風だったことを思い出した！しかし、あの時は恋しく思う男性などいなかった。出産後、二人の女性が抱き合って泣いたり笑ったりして、そしてあの柔らかい小さな命をどう抱けばいいのか分からなかった。

「美織？状況はどう？彼女の叫び声がすごく大きく聞こえるけど！」田中は廊下を行ったり来たりと焦りながら歩いていた。美織が出てくるのを見て、さらに不安になった。

「産婦はみんなこんな風に叫ぶものよ、大丈夫！」

「斎藤に電話して。彼女は彼に会いたがっているわ。」美織は田中を見つめながら、心の中で軽くため息をついた。

田中は美織をじっと見つめ、電話を取り出して斎藤に電話をかけた。「電源が切れてる！」田中は低い声で言った。

「もう一度かけて！」美織は下唇を強く噛み、涙が目に溜まった。

おととい夜に出産が始まったと伝えたばかりじゃないの？昨日の朝に電話で話したばかりじゃないの？どうして今電源が切れているの？

「まだ電源が切れてる！」

「もしかして飛行機に乗ってる途中かな？」田中は尋ねた。