第301章 「愛してる」と言ったことがあるか(1)

「そろそろ帰る時間じゃないかしら！うちの直哉ちゃんももう寝る時間よ！」木村清美は斎藤直哉の頬をつまみながら、斎藤遥と佐藤若菜に言った。

「お母さん」若菜は頭を下げて斎藤遥をちらりと見て、恥ずかしそうに呼びかけた。

「もう大人なんだから、本のことくらい、お母さんにはわかってるわよ！さあ、行きなさい、行きなさい！」清美は彼女が何を恥ずかしがっているのかを当然知っていた。

もともと夫婦なのだから、彼女としてはこの若い二人がすぐに仲直りすることを望んでいるのだ。何を恥ずかしがることがあるのだろう！ただ両親の前だから少し気まずいだけなのだろう！

「じゃあ私たち行きます。この数日で家を片付けたら、また会いに来ますね」若菜は顔を少し赤らめながら、小声で言った。

「ええ、都合がよければ、明日にでも手伝いに行くわ。都合が悪ければ、あなた一人でゆっくり片付ければいいのよ！」清美は何気なく言った。

「お母さん、何言ってるの！もう話さないわ、行くわよ！」若菜は清美を見ながら、恥ずかしさのあまり足を踏み鳴らし、直哉を抱いている遥の手を引いて外へ向かった。

「パパ、ママの顔どうして赤いの？熱出てるんじゃない？」直哉は若菜を見て、心配そうな顔で、遥の腕の中でもがきながら体を回転させ、ぽっちゃりした小さな手で若菜の額に触れた。

「ママ、熱出てる！」

「パパ、ママのお薬買いに行って！」小さな直哉は焦って遥に言った。

遥は顔を横に向けて恥ずかしそうな若菜を見て、そして心配そうに見つめる息子を見ると、人生に後悔はもうないと感じた。

「パパはここに薬を持ってるよ。ママが家に帰ったら、パパがあげるからね」遥は直哉をなだめながら、細めた目で若菜を見た。その言葉には別の意味が込められていた！

家に帰る時、直哉は安心して遥の腕の中で眠っていた。一晩中怒り、朝からずっと心配し、そして午後は遥と一緒に遊び回ったので、今はとても疲れていたのだ！

それに、以前若菜と一緒にいた時は、どんなに遅くても、どんなに疲れていても、目的地に着くと、若菜が軽く「坊や、着いたよ、起きなさい」と呼びかけるだけで、

幼い彼はゼンマイを巻かれたように目を覚まし、ママの手を握って、よちよち歩いて前に進んでいった。