第326章 愛の転身(1)

「ああ、君に任せるよ」田中大樹は頷いた。

「各人のテスト結果を取り出して、総合的な状況を分析してみます。後で斉藤琴乃が来たら、候補者の状況について話し合いましょう」佐藤若菜は頷きながら、資料を抱えて立ち上がり、自分のオフィスに戻ろうとした。

「琴乃？あの小娘に何がわかるんだ！なぜ斎藤遥が来ないんだ？」大樹は何気なく尋ねた。

「人を見くびらないでください。前回のテレビ局での件も見たでしょう。彼女は気迫も能力も大きく成長しています。多国籍企業の人事部長として、私たちと話し合うには十分な資格がありますよ」若菜は笑いながら言った。

「彼女の地位が足りないとは言っていない！ただ...」大樹は少し考えてから反対するのをやめた。「わかった、君がいいと思うならそれでいい」

「はい、では行ってきます」大樹はいつも人の長所を見抜き、敵を軽視することはなかったのに、今日はどうしたのだろう？

若菜は不思議そうに彼を見たが、彼の表情からは何も読み取れなかった。それ以上考えるのをやめ、資料を抱えて自分のオフィスに戻った。

1時間後。

「外は雨が降っているの？どうしてこんなに濡れているの？」受付が琴乃を案内してきたとき、若菜は琴乃が全身びしょ濡れとまではいかないものの、髪と服がかなり濡れていることに気づいた。

「ええ、出かける時に外を確認しなかったんです。ビルの下に着いたら雨が降っていて、傘を取りに戻るのも面倒だったので、そのまま走ってきました」琴乃は資料を若菜のデスクに置き、テーブルの上のティッシュを取って濡れた髪と服を拭いた。

「さて、始められますか？あなたのオフィスで行いますか？」身なりを整えた後、琴乃は尋ねた。

「ここでいいわ。まずは熱いお茶を飲んで温まって。田中社長を呼びますね」若菜は淹れたばかりの熱いお茶を彼女に渡し、大樹のオフィスに内線をかけた。

「あ、田中社長も参加されるんですか？」大樹も来ると聞いて、琴乃は急に緊張し始めた。

「そうよ。どうしたの？彼が怖いの？」若菜は琴乃の緊張した様子を見て笑いながら尋ねた。

「あなたは今、斎藤氏の人事部長よ。もう彼の部下の部下じゃないわ。彼と直接話しても全く引けを取らないわ。背筋を伸ばして、自信を持って」若菜は彼女が以前大樹の部下だったため、まだ上司への敬意と恐れがあると思ったのだ。