第377章 あなただけを騙す(3)

彼女は口を開けて叫び続けていた。「協力します、腐りたくありません」と。それを聞いた彼の心は、少し疑っていたものの、一気に沈んでいった。目の奥に暗い色が浮かび上がる。

「持っている100店舗を急いで譲渡しろ。現金で。売却後、10％はお前の取り分だ。残りは俺の口座に送れ」斉藤空也は人混みを抜けながら、素早く指示を出した。

「晴音、もし警察が俺を探しに来たら、二ヶ月家に帰っていないと伝えてくれ。お前と俺は離婚協議中だと」空也の頭は高速で回転していた。次の一手を準備しながら、白石晴音と自分との関係を切り離そうとしていた。

彼が晴音にどう接してきたにせよ、この状況で彼女を巻き込むつもりはなかった。彼女たちは、常に彼にとって最も大切な家族なのだから。

「わかったわ」電話の向こうから晴音の冷静な返事と、赤ん坊の無意識な泣き声が聞こえてきた。以前はあんなに煩わしく感じていたのに、今はとても温かく、心地よく聞こえる。

空也は一瞬固まり、低い声で「娘を頼む」と言うと、決然と電話を切った。

晴音の表情は、彼女の声のように冷静で抑制されたものではなかった。電話から「ツーツーツー」という音が聞こえると、彼女はゆっくりと受話器を置き、無表情な顔に微笑みを浮かべ、ベッドの上の娘を優しく抱き上げた。「赤ちゃん、ママがいるからね」と優しく語りかけた。

しかし、彼女の目から涙が泉のように溢れ出し、娘の顔を濡らした。

小さな赤ん坊は無意識に両手を振り回し、ママの顔を引っ掻いた。ママが反応しないのを見て、口を開け、「わあ」と大声で泣き始めた…

「晴音、赤ちゃんが泣いてるわよ。おむつが濡れてないか確認してちょうだい」母親の声がキッチンから聞こえてきた。

晴音は我に返り、手で顔の涙を拭い、抱いている子供を優しく揺らしながら、小さな声で言った。「泣かないで、ママは愛してるよ。ほら、ママが歌を歌ってあげる」

「小さな舟が揺れてる、おばあちゃんの橋まで揺れてく、赤ちゃんは笑って走っていく、おばあちゃん、おばあちゃん、赤ちゃんを抱っこして…」

抱かれた赤ん坊はママの優しい声を聞いて、またくすくすと笑い始めた…

「赤ちゃんが笑ってるね！ママは赤ちゃんが大好きよ！ほら、ほら」