第376章 あなただけを騙す(2)

彼は静かに目を伏せ、山田隼真を見つめながら淡々と言った。「この勝負は、君次第だ！」

振り返ると、隼真の鋭い視線が彼に注がれているのを感じたが、彼は足を止めることなく、冷酷な笑みを浮かべながら颯爽と外へ歩き出した！

「渡辺社長、あの女性がバッグを持って車に乗りました！」

「渡辺社長、あの女性はタクシーを乗り換えて、市内をぐるぐる回っています！」

「引き続き尾行して、写真を撮れ。常に経路を私に報告するんだ。すでに警察には通報済みだ！」

「渡辺社長、ご安心ください！」

田中蕎子は途中でタクシーを三回乗り換え、誰も追跡していないことを確認してから、にぎやかな商店街に入った。

ある集合住宅に入ると、無意識に振り返って周囲を見回した。古いアパートが立ち並び、汚れた市場には汚水が流れ、八百屋と値段交渉する主婦や老人たちは平静だったり興奮していたり。自転車に乗って行き交う学生たちは急いで通り過ぎていく。すべては、いつも通りだった！

彼女は深く息を吸い込み、十数段の階段を下りると、そこには廃棄された駐車場があった！

鍵を取り出してドアを開け、素早く中に入ると、内側から急いで鍵をかけた。

フラッシュも音もないカメラが、すでにこの一部始終を撮影していた。普段着姿で、通行人と何ら変わらない私立探偵は、この機会を利用して、写真と場所をすでに警察署にいる渡辺悟に素早く送信した。

「もしもし、斉藤空也？地下室に着いたわ。荷物が多いから、手伝いに来てくれない？それとも作業員を二人ほど呼んでくれる？」蕎子は電話を取り出して空也に電話をかけた。

「君はゆっくり準備しておいて。用事が済んだら行くから。非常時だから、知っている人は少ないほうがいいんだ」電話の向こうで、空也は冷たく指示した。

「わかったわ、じゃあ急いでね！」蕎子はうなずき、電話を切ると、汚れた場所を見て思わずくしゃみを二回した。