帰り道で、冷川峰は明らかに心配事があるようで、ずっと窓の外を見ていた。
深田確はもう我慢できなくなり、思わず口を開いた。「そんなに林悠がこのことを冷川宴に話すのが怖いのか?」
冷川峰は何も言わなかった。
深田確はさらに尋ねた。「林悠が直接冷川宴に話すのが怖いのか?それとも冷川宴がこのことを知るのが怖いのか?」
冷川峰はまだ窓の外を見たまま答えた。「この一件、もし林美芝がいなければ、宴と島子はとっくに幸せになっていたかもしれない。」
「そんな仮定をして何の意味がある?」深田確は彼を軽蔑した。「なぜ、あなたが海外に行かなかったら、あなたが先に林悠に出会って、最終的に結婚したのはあなたたち二人だった、なんて仮定をしないんだ?」
冷川峰の表情は一瞬ぼんやりとした。なぜなら、彼は本当にそんな可能性があったのかと考えずにはいられなかったからだ。
もし林悠が最初に出会ったのが自分だったら、林悠は自分を好きになっていただろうか?
彼には本当に答えがなかった。
しかし、彼が確信できるのは、林美芝が邪魔をしなければ、島子と宴はきっと幸せだっただろうということだ。
彼は自嘲気味に口を開いた。「実は、このことは島子が言わなくても、俺が宴に話すべきだ。兄としても、恋敵としても。」
「ふん!」深田確は呆れて笑った。「我らが隊長様は、恋敵としても、正義の味方でなければならないんだな。」
冷川峰はまた黙り込んだ。
深田確は彼に注意した。「前回、お前の弟が島子をどうやって傷つけたか覚えているか?」
冷川峰は振り向き、悲しげな表情で深田確を見た。もちろん覚えていた。
当時、深田確は彼に警告していた。もし冷川宴が人命救助をしたのが林悠だと知っても信じず、あるいは林悠が相応の報酬を得られなければ、林悠が受ける傷はさらに大きくなるかもしれないと。
「でも今回は違う。」冷川峰は説明し始めた。「今回は証人がいる。あの子と澤田楠雄が最高の証人だ。林美芝は否定できない。」
深田確は首を振った。「この世には、偶然が重なって、我々にはどうしようもないことがある。」
彼は真剣に冷川峰に警告した。「この件については、勝手な判断をするな。島子がどう決めるかは、彼女自身に任せろ。わかったか?」
「わかってる。」冷川峰は軽くため息をついた。