第280章 私は子供を堕ろしたい

林悠は口元を引きつらせ、さらにいくつかの注意事項を尋ねてから、田村園子に別れを告げた。

「田村先生、ありがとうございます。それでは失礼します」林悠は慎重に金田鎖を支えて立ち上がらせた。

「大丈夫よ」金田鎖は立ち上がり、まるで幽霊のように林悠について田村園子のオフィスを出ると、壁にもたれたまま動かなくなった。

「鎖？」林悠は心配そうに声をかけた。「とりあえず帰って、ゆっくり相談しましょう？」

彼女は金田鎖の顔色が非常に悪いのを見て、この子が衝動的になることを恐れていた。

案の定、金田鎖は突然林悠を見つめ、「島子、私、この子を堕ろすわ」と言った。

「鎖、急いで決めないで」林悠は金田鎖の手を掴んだ。「赤ちゃんを堕ろすのは、あなたの体にとても大きなダメージになるわ。まだ胎児は小さいし、考える時間はあるわ」

金田鎖は全身を震わせていた。「島子、もう考えたくないの。この子のせいで一生冷川廷深と関わり続けるなんて嫌だわ。それに彼が私に子供がいると知ったら、また子供のことで何かしようとするかもしれない。そんなの嫌よ！」

彼女は明らかに感情的になっていた。

「鎖、聞いて」林悠は金田鎖がこんな状態で決断を下すのを望まなかった。「まずは帰りましょう。子供のことは、私たちが黙っていれば誰も知らないわ。冷川廷深だって知ることはないわ」

金田鎖は何も言わなかった。彼女は今、確かに動揺していて、ただ涙が知らぬ間に流れ落ちるばかりだった。

林悠は彼女の涙を拭いてあげた。「まず帰って、よく考えましょう。私の言うことを聞いて、いい？」

「うん」金田鎖はうなずいた。自分が今冷静でないことはわかっていた。お腹の中にもう一つの命があり、自分の将来がその命と結びついていくことを考えるだけで、彼女は恐怖を感じていた。

「行きましょう、まずは家に帰りましょう」林悠は金田鎖を軽く支え、一緒に外へ向かった。

しかし、二人が全く予想していなかったことに、彼らは入口で冷川廷深と阿部軟子に出くわしてしまった。

そして、その時、冷川廷深は優しく阿部軟子を気遣っていた。

二組の人々が目を合わせ、明らかに皆驚いていた。

冷川廷深は金田鎖が手に一枚の紙を持っていることに気づき、無意識に首を伸ばして見ようとした。