心島カウンセリングルームの入り口に着くと、冷川宴と林悠は一緒に車から降りた。
「深田確が自分のプライベートクリニックを開いたなんて思わなかったよ。いいことだね」冷川宴は笑いながら言った。「以前から兄からよく聞いていたよ。深田確は心理学の分野で稀有な才能の持ち主だって」
林悠は口元を引きつらせた。「確かにいいことだけど...医者が自分自身を治せるかどうかはわからないわね」
彼女はまだ深田確の精神状態の浮き沈みが大きすぎて、何か変だと感じていた。
「え?」冷川宴は彼女の言葉の意味をあまり理解していなかった。
「なんでもないわ」林悠はこれ以上話したくなかった。「早く帰りなさいよ。予安を待たせないで。私たちはもう入るから」
彼女は腕の中の予寧を見て、「予寧、冷川おじさんにさようならを言いなさい」
「冷川おじさん、さようなら!」小さな子供は素直に手を振った。
「予寧、さようなら」冷川宴は林悠を見て、名残惜しそうに言った。「じゃあ先に帰るよ。何か必要なことがあればいつでも連絡して」
林悠は子供を抱いて通りに立ち、冷川宴が車のエンジンをかけたのに出発しないのを見て、すぐにまた手を振った。「さようなら、早く帰って!」
それで車はようやく走り去った。
「さっき冷川おじさんは、私たちが中に入るのを見てから行こうとしてたよ」予寧はママに教えずにはいられなかった。
「わかってるわ」林悠は軽くため息をつき、ドアを押してカウンセリングルームに入った。
「奥様!」看護師は彼女が来たのを見て、すぐに挨拶し、予寧をあやした。「予寧ちゃん、こんばんは!」
「お姉さん、こんばんは」予寧は恥ずかしそうに林悠の胸に顔を隠した。
「深田確はどこ?」林悠はすぐに尋ねた。
「あ、深田先生はまだ患者さんと面談中です。この数日は予約が多くて、深田先生はスケジュールを詰めています」
林悠は眉をひそめた。「私に電話をかけ直すように伝えなかったの?」
看護師は少し驚いた様子で、「伝えましたよ。深田先生から連絡はなかったんですか?」
林悠は唇を引き締めて黙っていた。
「きっと忙しくて忘れてしまったんでしょう」若い看護師は急いで深田確のために弁解した。「奥様、怒らないでください。この患者さんはすぐに出てきますから」