第79章（甘くなければ返金）抱擁

不意に君時陵に上着を掛けられた夏挽沅は、自分が完全に彼の香りに包まれているのを感じた。

淡い酒の香りと君時陵がよく使う白檀の香水が混ざり合い、侵略的に夏挽沅を包み込んだ。上着にはまだ彼の体温が残っていた。

夏挽沅が中に入ってからしばらく出てこないのを見て、運転手は非常に気が利いたことに車のドアを閉め、車内の二人に空間を譲った。

「何か心配事でもあるの？」

世間から見れば、君時陵は君氏グループ全体を所有し、決断力に優れ、栄光に満ちていた。

しかし夏挽沅は前世で朝政を取り仕切り、夏朝全体を掌握していた経験がある。

当然、高い地位に立てば立つほど、背負うものも大きくなるという道理を理解していた。

幼い頃、彼女は京郊外の草原で凧揚げをするのが大好きだった。泥が溶け、暖かい風が吹き、とても楽しかった。しかしその後の歳月で、彼女は七歳の時に見た京郊外の鳥が飛び交い草が生い茂る風景、青空と白い雲を二度と見ることはなかった。

酔いが上ってきて、君時陵は夏挽沅に上着を掛けた後、再び眠気に襲われたようで、ソファに寄りかかって目を閉じた。

夏挽沅の言葉を聞いて、君時陵のまつ毛がわずかに動いたが、目は開かなかった。

「話したくないなら、もう聞かないわ」

夏挽沅は自分が君時陵のプライバシーを侵害してしまったかもしれないと感じた。

「今日は私の両親の命日だ」目を閉じたまま君時陵が突然口を開いた。声はやや掠れていた。「三歳の時、彼らは交通事故で亡くなった」

「ごめんなさい、知らなかったわ」夏挽沅は慎重に口を開いた。

今の君時陵は、普段の冷たく孤高な姿とは違っていた。この特別な日が、彼がずっと心の中に隠していた柔らかな部分を呼び起こしたようだった。

人々は思い至る。あの何でもできる、頼もしい君時陵も、最初は小寶ちゃんのように、甘えたり、可愛らしく振る舞ったり、分からないことがあれば父母に尋ねる、ただの親の愛情と保護を必要とする小さな子供だったのだと。

「大丈夫だ、先に中に入っていいよ。外は寒いから、私もすぐに入るから」君時陵は目を開け、その深い瞳には疲れが満ちていた。

夏挽沅は心配そうに君時陵の様子を見て、彼の上着を羽織ったまま車を降りた。