第88章 夏挽沅が会社に食事を届ける

夏挽沅は宣升の冗談めかした目を見て、前回清華大學での講演で宣升が彼女と君時陵が一緒に歩いているのを見たことを思い出した。

一瞬考えて、宣升の言う「金絲雀」が誰を指しているのかを理解した。

「あなたが金絲雀を好きだとは思わなかったわ。私はてっきり、あなたはトカゲが好きなのかと思っていたけど」夏挽沅の声は冷たくなり、宣升の目をまっすぐ見つめ、威厳を漂わせた。宣升はほぼ瞬時に挽沅の変化を感じ取った。

宣升が何か言う前に、挽沅は沈騫に挨拶をして立ち去り、宣升を無視した。

宣升は呆然と挽沅の遠ざかる背中を見つめ、一瞬固まった後、後ろにいる助手に尋ねた。「トカゲって何か特徴あるの？」

助手はためらいがちに答えられずにいた。

「トカゲは舌が長いです」テーブルの向こう側から沈騫が口を開いた。さらに付け加えた。「そして醜い」

「ハハハハ」意外なことに、宣升はこの言葉を聞いても怒らず、むしろ目元に笑みを浮かべた。

夏家の問題を解決し、挽沅は心の重荷が下りたように感じた。これで君時陵と離婚しても、路頭に迷うことはなくなった。

もう食事の時間になっていた。庄園の食事は確かに美味しかったが、長く食べ続けると違う味も恋しくなる。

挽沅は昼食を外で食べようと思い、君時陵が彼女をたくさん助けてくれたことを考えると、どう感謝すればいいのか分からなかった。

良さそうなレストランを見つけて、挽沅は時陵に電話をかけた。

「次の四半期の計画はほぼ説明が終わりました。まだいくつか問題があります。一つ目は—」

オフィスに突然、携帯の着信音が鳴り響いた。

全員が冷や汗をかき、自分の携帯のマナーモードを忘れていないか確認した。

自分の携帯ではないと確認すると、皆は自信を持って顔を上げ、誰の携帯が鳴ったのか知りたくて視線を巡らせ、その不運な人のために心の中で黙祷した。

そして皆は君時陵がスーツのポケットから携帯を取り出し、応答ボタンを押すのを見た。

皆は心の中の文句を引っ込めた。

「もしもし、うん、いいよ、来てくれ。着いたら連絡して」

表面上は真面目に座っている会議参加者たちだが、実際には目の端で君時陵の方へ視線を送り、ほとんど斜視になりそうだった。

そして皆は、いつも厳格で冷静なあの大ボスの眉目が柔らかくなるのを見た。