第176章 姫と君少が喧嘩した

一時間が経ち、君時陵はずっと静かに傍らで何も言わなかった。

長い間練習して、モダンダンスの基礎がなんとなく掴めてきたと感じた夏挽沅がもう少し練習しようと思った矢先、音楽が止まったことに気づいた。

夏挽沅が顔を上げると、君時陵が音楽プレーヤーのスイッチを手に持ち、不機嫌そうな表情で彼女を見ていた。

「命が惜しくないのか？」君時陵の低い声には抑えた怒りが含まれていた。

「時間が限られているからですよ。この数日間、朝はジョギングトレーニングもしているし、体は大丈夫です」夏挽沅は笑いながら言った。実は前世での彼女のトレーニング強度はこれよりずっと厳しかった。

ただ、元の体の基礎体力があまりにも弱かったため、踊るのがこんなに大変だっただけだ。

あと数日トレーニングを続ければ、ずっと良くなるはずだ。

「俺のところで食べ物や服に不自由しているのか？俺のカードを好きに使えばいい。そこまで無理する必要があるのか？」夏挽沅がまだ何でもないような態度を見せると、時陵の心の中の怒りは抑えきれなくなった。

「私はここに一生住めるわけじゃないし、あと一ヶ月で出ていくんです。ずっと人に頼って生きていくわけにはいかないでしょう」夏挽沅は心の中でそう思い、口にも出してしまった。

彼女は自分の運命を他人に依存させることはなかった。時陵が与えた1億の離婚金は多いが、いつかは使い果たす日が来る。バラエティ番組を引き受けた以上、最善を尽くしたいと思うのは当然だった。

「いいだろう。好きにしろ」時陵は歯を食いしばり、非常に怒っているようにそう言い捨てて、袖を払って去っていった。

彼女はやはり去りたいのか。彼女がこんなに必死に働くのは、自分から離れる準備をしているからなのか。彼女はこの場所に一切未練がないのか？

時陵の顔に浮かぶ冷たさは、王おじさんが百メートル離れていても感じ取れるほどだった。

王おじさんは君時陵がダンススタジオから怒りに任せて出てきて、振り返りもせずに二階の書斎に入っていくのを見て、心がドキリとした。これはどうしたことだ、若様と奥様は喧嘩でもしたのだろうか？

ダンススタジオでは、夏挽沅も少し不思議に思っていた。なぜ時陵が突然そんなに怒ったのか分からなかった。彼女の印象では、時陵はいつも冷静沈着で、どんなことも彼の心を乱すことはなかった。