夏挽沅は少し顔を傾けると、君時陵が熱い視線で彼女を見つめているのに気づいた。
本来「お兄さん」という言葉は夏挽沅の認識では、弟や妹と同じような普通の呼称に過ぎなかったが、君時陵の口から出ると、どうしても顔が赤くなるような響きに聞こえた。
「食べたくなければいいわ。どうせお腹が空くのはあなたなんだから」夏挽沅はパンを君時陵の膝に投げ、窓の方へ少し体を寄せた。平静を装っていたが、赤くなった耳たぶが彼女の落ち着かない心情を露呈していた。
「食べるよ、挽沅妹妹」夏挽沅の恥じらいに時陵は笑みを深め、包装を開けてゆっくりと食べ始めた。
衛子沐の口から聞くとごく普通だった四文字が、時陵の口から出ると、言い表せないほど甘美な響きを帯び、心がくすぐったくなるような感覚だった。
「私を挽沅妹妹なんて呼ばないで」挽沅は時陵を見つめた。
「いいよ、でも君も約束して。これからは彼をお兄さんと呼ばないこと」時陵はゆっくりとパンを一口飲み込み、挽沅を見た。
いつか必ず、挽沅に自分をお兄さんと呼ばせる日が来るだろう。
「了解」どうせ衛家の人たちとは家族として付き合うつもりもなかったし、子沐は彼女の兄でもない。彼女に呼べと言われても呼べるはずがなかった。
これで時陵は満足し、挽沅の方へ少し体を寄せた。「今日はどうだった?」
「人が多くて、料理は美味しかった。おばあさまはとても賢明な人ね」挽沅は簡潔に答えた。
「次に衛家に行く時は、前もって教えてくれ。君が現れたことで、衛家には相続権を争う人間が一人増えたわけだから、用心した方がいい」
「わかったわ」挽沅は牛乳を時陵に差し出した。「これを飲んで」
しかし時陵は受け取らず、熱い視線で挽沅を見つめた。「書類にサインしすぎて、手が疲れた」
「...............」
挽沅は一瞬言葉を失ったが、忙しい中自分を迎えに来てくれた時陵のことを思うと、心が和らいだ。ストローを牛乳パックに差し込み、時陵の口元に持っていった。
時陵は身を屈めてストローから一口飲み、深い眼差しで挽沅を見つめた。「牛乳が甘いか試してみない?」
挽沅はもはや鈍感ではなく、この数日間の時陵の影響で非常に敏感になっていた。時陵のその眼差しを見れば、彼が言う「試してみる」が何を意味するのか理解できた。
「いらない!」