君時陵は観客席に座り、笑みを含んだ目で彼女を見つめていた。夏挽沅の唇の端が思わず少し上がった。
世界音楽大会はグローバルな生中継だけでなく、多くのカメラマンも会場にいた。舞台の上で微笑む挽沅の姿がカメラマンによって記録された。
「さて、ここで全ての出場者にステージにお上がりいただきます」
全出場者の得点が集計され、最終順位も決定していた。
「今大会の第3位はマッケンからのアリスさんです。おめでとうございます!」司会者の声が落ちるや否や、会場内から熱烈な拍手が沸き起こった。アリスは興奮して前に出て、トロフィーを受け取った。戻る途中、挑発的な視線を挽沅に向けた。
大会の第2位は鷹國のピアニストに贈られた。
観客たちは首を伸ばして司会者の第1位発表を待っていたが、司会者は突然、第1位は羅曼大師が直接発表すると告げた。
羅曼大師は挽沅の側に歩み寄り、マイクを手に取った。
「今回の世界音楽大会に参加された皆さんは、非常に優秀な方々ばかりです。皆さんの演奏にはそれぞれ光るものがありました。音楽に国境はありません。最終的に審査員全員の同意により、今大会のチャンピオン曲は東西文化の架け橋となったと判断しました。よって、華国からの夏挽沅さんにおめでとうございます!」
羅曼大師の言葉が終わると、観客から拍手が湧き起こった。確かに挽沅の演奏は素晴らしく、彼らは皆その感動を直に体験していた。
【うわぁ!!!本当に優勝したの!】
【夏挽沅すごい!!!】
【すごすぎる私たちの沅沅、うぅぅぅぅ、私が応援してる人ってこんなに優秀なんだ!!世界大会の優勝だよ!】
挽沅の優勝により、国内の各メディアは大騒ぎとなり、あらゆるプラットフォームでこのニュースが配信された。
これらすべてを挽沅は知らなかった。彼女は楽屋で羅曼大師に捕まっていた。
「夏お嬢さん、本当に私の弟子になってくださらないのですか?」羅曼大師は10回目の同じ質問をした。
「申し訳ありませんが、私にはすでに師匠がいます。他の師匠を持つと、師匠が怒るでしょう」
挽沅には確かに師匠がいた。ただしそれは前世の話だ。于千大師は孤高の性格で、生涯で挽沅ただ一人を弟子にした。一日師匠となれば、生涯父のようなもの。挽沅は現代で他人の弟子になるつもりはなかった。