第110章 過去を振り返る

あの日、彼は真理子に、自分の名前は黒田俊均だと告げた。

二日後、真理子は彼の別荘に住み込み、家政婦となった。給料は彼女が普段稼ぐ額の三倍で、食事と住まいも提供された。真理子はもちろん喜んだ。

彼が軍人で、かつて戦争に参加し、著名な戦闘英雄であること、そして障害も国を守るためのものだと知り、真理子は彼をますます尊敬するようになった。

俊均は非常に意志が強く、病の苦しみで痩せ衰えていても、軍人としての優れた姿勢を保ち、積極的に治療に協力し、懸命に学んでいた。真理子は彼が耐えられないほどの痛みに苦しんでいるのをよく目にしたが、彼は理性を失って過激な行動をすることはなかった。物を投げたり、人に八つ当たりしたりすることは一度もなく、いつも一人で歯を食いしばって耐えていた。真理子は彼に敬服するとともに、深い同情と憐れみを感じ、より心を込めて彼の日常生活の世話をするようになった。

一方、真理子の寡黙な性格は、慎重で思慮深い印象を与えた。彼女の従順さと優しさ、そして勤勉で面倒や苦労を厭わない姿勢は、俊均と彼の周囲の人々を満足させた。

雇い主と家政婦はこのように平和に過ごしていた。俊均は彼女に日常の世話をしてもらう以外、彼女とあまり多くを語らなかった。彼は彼女がどこの出身かさえ尋ねたことがなかった。

真理子を別荘に連れてきて、身分証明書をチェックし、経歴を繰り返し尋ねたのは、他のスタッフだった。

もちろん、彼らが尋ねても無駄だった。真理子の身分証明書は確かに本物だったが、彼女自身は別人になりすましていたのだ。彼らも家政婦のために遠く山奥まで調査に行くことはなく、また俊均は彼女を信頼し、雇うことを望んでいた。

真理子は別荘で田原雅子の写真を見た。壁に掛けられたもの、テーブルに置かれたもの、単独の写真も一緒に写ったものもあった。他のスタッフは彼女に言った：「これは長官の元婚約者です。今はもう婚約者ではありませんが、長官はこれらの写真を大切にしています。拭く時は注意して、壊さないようにしてください。」