大崎健太も少し憂鬱だった。来ないと言っていたのに、また来た。彼はこの場所で除隊まで勤め上げると決心していたのに、特別な配慮は必要なかった。今ここから異動させられるなら、絶対に承知しないつもりだ。
健太は考えすぎていた。黒田俊均は決して彼のために来たわけではなく、そんなことを考える暇もなかった。今回莞都軍分区に来たのは緊急の用事があったからで、最近は軍務が急を要し、休日もない状態だった。莞市には最大でも3、4時間しか滞在できず、用事を済ませたらすぐに戻る予定だった。
土埃が舞い上がる公道を、四台の車が間隔を保ちながら、猛スピードで莞市の領域に入っていった。
均はいちばん前のジープに座り、窓の外を流れていく郊外の景色を眺めながら、剣のように鋭い眉を軽くしかめ、何かを考えていた。
隣の軍官がタバコを差し出したが、均は手を振って断った。その軍官は軽く笑って言った。「どれだけ我慢できるかな?俺たちみたいな人間は、遅かれ早かれこれに手を出すことになるさ!」
車がカーブを曲がって坂を上ると、助手席に座っていた三和光太が後ろを振り返って笑いながら言った。「後ろの乗用車もこんなに接近して走っているけど、あの姉弟は大丈夫かな?」
均は振り返って見たが、表情は変わらなかった。心の中でため息をついた。自分は急いでいるからスピードが速くなると言ったのに、吉田おばさんと花菜は聞く耳を持たず、道端で待ち構えて一緒に来ると言い張った。彼らは自分の職場の車を使っているのだから、ゆっくり運転すればいいのに、こんなに急ぐ必要はないのに。花菜はめまい症があるのに、発作が起きたらどうするつもりだろう?
自分も悪かった。昨晩食事に行って、今日莞市に来ることを余計に話してしまった。吉田おばさんは田原おじさんに何か持たせてほしいと言い、自分は時間がないかもしれないと答えたのに、結局...母子三人が一緒についてきてしまった!
花菜は誠一を説得して父親に会いに来させた。彼らは休暇中だから自由に行き来できるが、吉田おばさんは姉弟を自分に託そうとした。軍務があり同僚も一緒なので、二人の子供を連れて行くことはできない。そこで吉田おばさんは職場の車を手配し、自ら付き添ってきたのだ。