東京は五月に入り、陽光が燦々と降り注ぎ、気候は心地よく、田原邸の庭園には色とりどりの花が咲き乱れ、草木が生い茂っていた。日曜日の早朝、田原おじいさんは庭で五禽戯を数セット行い、タオルで汗を拭きながら家に入った。リビングのテーブルには蕾を持つ蘭の鉢が二つ置かれ、布切れや小さな木のヘラなどが脇に放り出されていた。どうやらまだ手入れが終わっていないようだが、人影は見えなかった。
谷本さんが二階から降りてきて、笑いながら言った。「お湯の準備ができましたが、今入浴されますか?」
田原おじいさんは辺りを見回した。「ちょっと一息つこう。おばあさんはどこに行ったんだ?」
「何の用?」田原おばあさんが二階の手すりから顔を覗かせ、高いところから傲慢に田原おじいさんを見下ろした。「田原仁謙、老人性認知症になったの?何度も言ってるでしょ、私のことをおばあさんって呼ばないで!」
すっかり健康を取り戻した田原おばあさんは、以前のふくよかな体型には戻っていないものの、肌は細やかで白く、顔色も良く、眉は整い目は澄んでいた。体重が減ったため、わざわざ体にフィットする軍服のようなスーツを着て、短い髪を軍帽に収め、さっぱりとして颯爽とした姿は、背が高くすらりとしていて、まるで若い頃に戻ったようだった。谷本さんたちは大絶賛していたが、実は田原おばあさんのこのスタイルは、現代のスーパーモデルの基準にぴったり合っていたのだ。
谷本さんがキッチンに向かうのを見て、田原おじいさんはくすくす笑いながら階段を上り、声を低くして言った。「おばあさんと呼ばないで、まさか真理子に倣って『皇太后』と呼べというのか?君たち祖母と孫は天に逆らうつもりか!」
田原おばあさんは何かを抱えたまま、田原おじいさんが上がってくるのを待たずに左側の部屋へと向かい、きっぱりと言った。「外出時は『同志』と呼んでもいいけど、家では『片方さん』か、真理子の提案通り『片方お嬢様』と呼んでちょうだい!」
田原おじいさんは足を滑らせた。「なんだって?今日はお嬢様になったのか?いや、『片方さん』とまだ数日しか呼んでないじゃないか!」
「あなたの変な呼び方にうんざりしたから、変えたのよ!」