野井北尾は息が詰まる思いがした。
証明書を取りに行く。
もちろん、取るのは離婚証明書だ。
証明書を取得すれば、彼と田口優里は法律上何の関係もなくなる。
二人はきれいに別れることになる。
しかしこの瞬間、野井北尾の心に湧き上がったのは拒絶感だった。
彼はそうしたくなかった。
彼はなぜ自分がそんな考えを持つのか、さえわからなかった。
青春時代、初めて恋に落ちた時、彼は自分の将来の妻は渡辺雪也のような良家の令嬢であるべきだと思っていた。
優雅で気品があり、釣り合いのとれた家柄の女性。
若気の至りの年頃に、家族に強制的に田口優里との結婚を手配され、当時の野井北尾は不満を田口優里に向けていた。
結婚して3年、彼は夫としての責任を果たすことしかできないと自認していた。
利益のための結婚には、愛は似合わないと。