第33章 そんなことしないで、私たちはもう離婚したの

田口優里は少し居心地が悪くなり、動いて横にずれようとした。

どう言っても、二人はもう夫婦関係ではない。

野井北尾はどうして...まだ以前と同じように、そんなに簡単に興奮してしまうのだろう。

彼女の意図を察知し、野井北尾は手を伸ばして彼女の腰をつかみ、動かせないようにした。

田口優里の足は押さえられ、腰も彼に握られ、まったく動けなかった。

「やめて...」彼女は口を開き、声が少し震えていた。

彼女の声を聞いて、野井北尾は抑えきれず、熱い唇を彼女の首筋や唇の端に落とした。

彼のキスには魔力があるようで、田口優里はほとんど魅了されそうになったが、残りわずかな理性で彼の唇を避けた。「こんなことしないで、私たちはもう離婚したのよ」

野井北尾の体が硬直した。

彼は深く息を吸い、名残惜しそうに体を横にずらした。「ごめん、我慢できなかった」

田口優里は顔をそむけ、耳たぶはすでに赤くなっていた。

野井北尾は彼女と並んで横になり、体の欲望を抑えながら口を開いた。「優里ちゃん、一つ言っておきたいことがある」

「何?」

「三井和仁という人物は、冷酷で気まぐれ、執着心が強く狂気的だ。これからは彼と接触しないほうがいい」

以前なら、野井北尾が何を言っても、田口優里はそれに従っていただろう。

野井北尾も、田口優里が素直に彼の言うことを聞くと確信していた。

しかし田口優里は言った。「ごめんなさい、それは約束できないわ」

野井北尾は起き上がり、彼女を見下ろした。「彼とはどうやって知り合ったんだ?仲がいいのか?」

田口優里は三井和仁との秘密を守ると約束していたが、野井北尾はしつこく根掘り葉掘り聞いてきた。

それに、彼女が言わなくても、野井北尾の能力と手段をもってすれば、調べるのは難しくないだろう。

彼女はしかたなく口を開いた。「彼は私の患者よ」

「患者?彼はどんな病気なんだ?」

「下半身麻痺。知らなかったの?」

野井北尾は大いに驚いた。「君が治せるのか?」

田口優里は秘密保持契約の条項を思い出し、曖昧に答えるしかなかった。「鍼灸で症状を和らげているだけよ」