彼女は心の中で決心がついて、むしろ冷静になった。
家で二日間過ごした後、野井義敏へのお土産を用意し、恭しく野井家の本家を訪れた。
野井家と渡辺家は代々の付き合いがあり、お爺さんも渡辺雪也の印象は悪くなかった。
しかし、孫たちの恋愛事情のごたごたについては、彼は知らなかった。
渡辺雪也は老人の前では従順で愛らしく振る舞い、お爺さんを喜ばせた。
その日、野井北尾はお爺さんから電話を受けた。
「うちと渡辺家は何代にもわたって親しくしてきたんだ。雪子に至らない点があったとしても、お前たちは幼なじみだし、両家の付き合いもある。どうしてこんなにみっともない状況になってしまったんだ?」
以前は自分が渡辺雪也に好意を持っていたから田口優里と離婚したと思われていたが、そんなことは野井北尾が死んでも、お爺さんの前では言えないことだった。