第84章 私たちは新たに始める

正直に言って、この男はいつでも魅力的だ。

たとえ簡素な部屋着を着ていても、肩幅が広く腰が細い完璧な体型の持ち主で、歩くホルモン製造機のようだ。

とにかく、信じられないほどハンサムだ。

田口優里は寝室の中央に置かれた大きなベッドを見て、それから野井北尾を見た。「ここで寝たいの？」

野井北尾の目が輝いた。急いで頷いた。「うん！」

田口優里は微笑んだ。「いいわよ。」

野井北尾は心の中で喜び、すぐに枕を抱えてやってきた。

彼は枕を置き、優里を抱こうとした瞬間、田口優里がもう一つの枕を抱え上げるのを見た。

彼は呆然とした。「優里ちゃん？」

田口優里は片手で枕を抱え、もう一方の手でスマホを持ち、彼に顎をしゃくった。「あなたがここを気に入ったなら、譲るわ。私は隣の部屋で寝るから。」

野井北尾は2秒間呆然とした後、急いで田口優里を止めに行った。「優里ちゃん、僕がそういう意味じゃないって分かってるでしょ...」

「じゃあ、どういう意味なの？」

野井北尾は彼女を見下ろした。

田口優里は間違いなく美しかった。しかし、野井北尾のような出自の人間にとって、美しい女性を見るのは珍しくなかった。

だが彼の目には、田口優里に匹敵する人は一人もいないように思えた。

彼女が最も美しかった。

野井北尾はそっとため息をついた。「優里ちゃん、僕は...あなたと一緒に寝たいんだ。」

田口優里も彼を見つめた。「今夜ここに残るのは、亀山直之が心配だからよ。私たちは再婚もしていないし、恋愛関係も確定していないのに、どうして同じベッドで寝られるの？野井社長、何を考えてるの？」

「再婚していないのは分かってるけど...」野井北尾は哀れっぽく彼女を見た。「でも、僕たちは恋人同士じゃないの？」

「そうなの？」

野井北尾の目には戸惑いの色が浮かんだ。

田口優里は言った。「早く寝なさい。」

「優里ちゃん。」野井北尾は彼女を呼び止めた。「前に、胎児が安定してからおじいさんに伝えると言ったよね。」

「うん。」

「実は、子供とは関係ないんだよね。」野井北尾の声は低く、少し落胆していた。「僕のせいで...僕があなたに安心感を与えられないから、おじいさんにこのことを伝えたくないんだよね。」

田口優里は否定しなかった。「そうよ。」

「僕が悪かった。」

田口優里は何も言わなかった。