第119章 彼女は去った

野井北尾は全く予想していなかった。翌朝早く、田口優里がいなくなっていたのだ!

野井北尾も三井和仁と同様、普段外出する際はボディガードを連れて行くが、野井北尾自身が武術の心得があるため、安全面についてはそれほど重視していなかった。

今回の入院では、ボディガードが堂々とドアの前に立っていると目立ちすぎるため、彼らの多くは人混みに紛れていた。

状況を確認すると、ボディガードたちは昨夜、田口優里の部屋に数人の医師が果物を持って訪れたと言った。見舞いに来たようだった。

病室に数分間滞在した後、彼らは去っていった。

それ以降、田口優里が出てくる姿は見られなかった。

野井北尾はすぐに調査を命じた。

すぐに、廊下の監視カメラ映像が彼の携帯に送られてきた。

彼はほぼ瞬時に田口優里を見つけた。

入ってきた医師より出ていった医師の方が一人多かった。

田口優里は白衣を着てマスクをし、数人の医師たちに紛れて病室を出ていた。

なぜだ?

田口優里はなぜこっそり出て行ったのか?

彼に一言言えば、彼女を止めただろうか?

野井北尾は自分の怪我も顧みず、すぐに車を手配させ、田口優里を探しに行こうとした。

別荘には確実にいないだろう。田口優里のアパートにも誰もいない。田口義守のところは…

野井北尾は電話を切り、顔色が暗くなった。

田口義守は田口優里が入院していることさえ知らなかった!

この人は一体どんな父親なんだ?

野井北尾は彼らの父娘関係が良くないことを知っていたが、田口優里が入院のことさえ言わないとは思わなかった。

もし普通の父娘関係なら、野井北尾は進んで田口義守に連絡するだろう。

しかし以前、田口優里は田口家のことに野井北尾が口を出さないでほしいと明確に言っていた。

しかも田口義守が愛人と私生児を家に連れ帰ったことで、野井北尾の彼に対する印象は最悪だった。だから、連絡する必要がなければしないようにしていた。

今は彼に対してさらに好感が持てなかった。

当面の急務は、田口優里を見つけることだ。

それに、田口優里がこっそり出て行ったのは、彼を避けるためだろうか?

でも彼は…すでにとても素直だったはずだ。

ここ数日、彼は恋しさを必死に抑え、ただ横で彼女をこっそり見るだけで、話すことさえあまりしなかった。

彼は田村若晴に電話をかけた。