十月に研修に行くことが分かっていたので、田口優里は新しい患者を受け入れていなかった。
病棟に入院している患者たちの治療も一段落していた。
植物状態だった藤原浩一はすでに退院していた。
田口優里が時間を見つけて書いていた論文もほぼ完成していた。
野井北尾はここ数日、彼女をただ静かに見守るだけで、邪魔をしに来ることはなかった。
しかし田口優里を困らせたのは、彼女が怪我をした日から毎日昼になると、三井和仁が人に頼んで昼食を届けさせるだけでなく、野井北尾も同じことをしていたことだった。
田村若晴は彼女に頑固だと言った。「何が困るの?食べたいものを食べればいいじゃない。食べきれなかったら科の看護師たちに分けてあげれば。」
三井和仁の方は、彼がどんな性格か、田口優里はよく知っていた。
もう食事を送らないでほしいと言っても、現実的ではなかった。
野井北尾の方は、田口優里が流産したと思っているので、体を養生させたいのだった。
田口優里は田村若晴の言葉を聞いて、気持ちを切り替えた。
断れないことなら、受け入れるしかない。
野井北尾に下村家のことを聞きたいと思っていたが、すぐにチャンスが訪れた。
野井北尾の誕生日が近づいていた。
例年なら、田口優里は前もって彼の誕生日プレゼントを用意していた。
しかし今年は、田口優里はまったく思い出していなかった。
野井北尾が悲しそうな顔で彼女を病室の入り口で止めるまでは。
田口優里は最初、彼を相手にするつもりはなかったが、下村青葉のことを聞きたいと思い、仕方なく口を開いた。「どうしたの?」
野井北尾は飼い主に捨てられた子犬のように、委屈そうに彼女を見つめた。「今日が何の日か覚えてる?」
田口優里はこんな質問をされるとは思っておらず、直接答えた。「何の日?」
彼女は深く考えもせずにその四文字を言い終えると、野井北尾の目が赤くなるのを目の当たりにした。
田口優里は胸がドキリとし、頭の中が高速回転した。
思い出した。
今日は野井北尾の誕生日だった。
彼女と野井北尾が婚姻届を出したのは3年前の7月だった。
だから婚姻届を出してからすぐに、彼女は野井北尾の最初の誕生日を祝った。
あの頃、二人の関係はまだ疎遠と言えるものだった。
2ヶ月の間に、野井北尾は40日も出張していた。