田口優里は彼を一瞥した。「あなた、随分変わったわね」
「どこが?」
「前は知らなかったわ、あなたがこんなにユーモアのある話し方をするなんて」
「そう?」野井北尾は首を傾げて考えた。「それは前に私たちの接触が少なかったからだよ。これからは、もっと接触する必要があるね」
田口優里は微笑んだ。「恋愛速成講座でも受けたの?」
野井北尾は大いに驚いた様子で「バレたか!」
「本当に受けたの?」
野井北尾は手を拭いて、隣のスマホを取って彼女に見せた。「ここだよ」
田口優里は近づいて見た。
彼のメモ帳に「人を追いかける100のコツ」というファイルがあった。
田口優里はそれを開いて見て、プッと笑った。
「彼女が興味を持つ話題を見つける」「細やかな気配り」「常に男性の魅力をアピールする」など。
なかなか実用的だ。
野井北尾のような恋愛経験のない人にとっては、手取り足取り教えてくれる内容だった。
「ここには、適度な駆け引きが感情を深めると書いてあるのに」野井北尾は彼女に指さして見せた。「まさか僕がコンドームを買ったことで、君が不機嫌になるとは思わなかった。このコツも、あまり役に立たないみたいだね」
「そのコツが役に立たないんじゃないわ」田口優里は言った。「あなたのいわゆる駆け引きが、線を越えたのよ」
「わかった」野井北尾は素直に受け入れた。「今後はそうしないよ」
「あなたのそういう行動は、私に思わせるの——あなたが私を手に入れることに自信満々で、既定の事実だと思っていると。野井北尾、なぜあなたは、私を追いかければ、私が必ず同意すると思うの?」
野井北尾は一瞬固まった。「そんなつもりは…」
「あるわ」田口優里は言った。「あなたは追いかけるという行為が、単なる遊びだと思っているんじゃない?過程がどうであれ、結末は同じだと。私はずっとあなたの妻で、それはあなたにとって確定的なことだと、そう思っているでしょう?」
「僕は…」
「野井北尾、たぶん前に、私がはっきり言わなかったからね」
田口優里の表情は真剣で、野井北尾も思わず背筋を伸ばし、少し緊張した。
「私があなたにチャンスをあげたのは、追われる楽しさを味わいたいからじゃない。ただ知りたいの、私たちが本当に合っているかどうかを」
「わかってるよ…」