第205章 私たちはかつて恋人だった

やはり、この世の中の人や物事は、完璧なものなどほとんどないものだ。

松下牧野のような有能な人物でさえ、人に言えない苦労があるのだろう。

回診の後、田口優里は順番に患者の治療をしなければならなかった。

松下晴彦の番になったのは、もう10時過ぎだった。

彼女が病室に入ると、松下牧野がまだ帰っていないことに気づいた。

松下牧野は多くの資産を持ち、普段は忙しい人だ。

田口優里は知っていた。彼が松下晴彦を見舞いに来る時間は、いつも無理して作り出したものだということを。

二人で何度か食事をした時も、松下牧野の携帯には絶え間なく電話やメッセージが入っていた。

だから松下牧野がこんなに長く病室にいるのを見て、田口優里は少し驚いた。

「優里ちゃん」松下牧野は手元の書類を置き、立ち上がって彼女に挨拶した。「鍼をするの?」

田口優里は彼に微笑んだ。「はい」

二人は前後して奥の部屋に入った。松下牧野が言った。「晴彦の顔色がどんどん良くなってきているね。以前は青白かったのに、今は血色が良くなった」

田口優里は説明した。「気血の流れが良くなったからです。顔色だけでなく、体の各器官の機能も強化されます」

「本当にありがとう」

田口優里は急いで言った。「これは基本的なことです。彼が目覚めた後も、まだ回復の過程が必要です」

「何年も待ってきたんだ、あと数ヶ月待つくらい大したことじゃない」松下牧野は笑って言った。「私は焦っていないから、あなたも焦らなくていい。あなたの計画通りに進めてください」

「私たちの仕事へのご支援に感謝します」

二人が交わしたのは社交辞令だった。

もちろん、これは松下牧野が残って聞きたかったことではない。

田口優里が鍼灸をするために来ると、松下牧野はまず私設の医療スタッフを外に出した。

田口優里が鍼を打ち終えると、松下牧野は彼女を外に座るよう招き、お茶を一杯注いだ。「東京病院に来てから、この病院の印象はどう?」

田口優里は正直に答えた。「とても良いです。さすが医療の殿堂、国内最高レベルの医療機関です。医術も医の倫理も、私が学ぶべきものばかりです」

「ここに残りたいと思わない?」松下牧野は直接尋ねた。「研修ではなく、東京病院の一員として、正式な職員として」