やはり、この世の中の人や物事は、完璧なものなどほとんどないものだ。
松下牧野のような有能な人物でさえ、人に言えない苦労があるのだろう。
回診の後、田口優里は順番に患者の治療をしなければならなかった。
松下晴彦の番になったのは、もう10時過ぎだった。
彼女が病室に入ると、松下牧野がまだ帰っていないことに気づいた。
松下牧野は多くの資産を持ち、普段は忙しい人だ。
田口優里は知っていた。彼が松下晴彦を見舞いに来る時間は、いつも無理して作り出したものだということを。
二人で何度か食事をした時も、松下牧野の携帯には絶え間なく電話やメッセージが入っていた。
だから松下牧野がこんなに長く病室にいるのを見て、田口優里は少し驚いた。
「優里ちゃん」松下牧野は手元の書類を置き、立ち上がって彼女に挨拶した。「鍼をするの?」