田口義守は以前東京で別荘を購入したが、市街地から遠く離れていた。
本当に喧騒の中の静寂を楽しめる市中心部の豪華な別荘は、金があっても手に入らないもので、田口義守の地位では到底購入できないものだった。
東京は交通渋滞がひどく、数人が別荘に住んで病院との往復をするなら、毎日道中に3時間以上費やすことになる。
そのため現在、三人はまだホテルに滞在していた。
二見玲香は羨ましげに感慨深く言った。「野井北尾は東京に二、三カ所どころか、それ以上の別荘や不動産を持っているそうよ。どれも金があっても買えない一等地だって」
田口義守は言った。「そんなこと言って何になるんだ!」
二見玲香は彼の腕に手を回して笑いながら言った。「優里は運がいいなと思っただけよ。これらはすべて夫婦の共有財産なんだから」
「何の役にも立たん!」田口義守は顔をしかめた。「彼女の運がよくても、俺に何の得があるんだ?彼女が俺にどんな態度を取るか見てみろよ!」
「だから私は、何か策を講じる必要があると言っているのよ。あなたはその態度ではダメよ」
「彼女は恩知らずの母親と同じだ!俺があれほど彼女に良くしたのに、触れることさえ許してくれない...」田口義守は歯ぎしりし、言葉を途中で切って恥ずかしくなり、飲み込んだ。「とにかく、母娘揃って白眼視する狼だ!」
二見玲香はこれらの事情を知っていたが、亀山由美が田口義守に触れることを許さなかったというのは初耳だった。
二見玲香自身の価値観が歪んでいて、良い人間ではなかったとしても、彼女は当時田口義守が成功できたのは亀山家のおかげだということをよく理解していた。
彼がいわゆる亀山由美に良くしたというのも、亀山家を後ろ盾にしてより多くの利益を得るためだけだった。
実際、彼が稼いだ金額に比べれば、亀山由美への「優しさ」は無視できるほど小さなものだった。
そもそも、彼が亀山由美を追いかけたのは、亀山家の名声を目当てにしていたからだ。
彼が亀山由美と結婚したのも、愛情のためではなかった。
亀山家は彼に望むものを与えた。彼には亀山由美にあれこれ要求する権利などなかった。
二見玲香はよく分かっていた。男というのは本質的に良いものではない。
自分の目的のためなら、手段を選ばない。