第269章 彼はマゾヒストではない

しかし田口優里がここまで言ったところで、松下牧野がこれ以上主張すれば、お互いに不愉快になるだけだった。

彼は仕方なく言った。「それなら、時々連絡を取り合うことはできますよね?」

田口優里は笑って言った。「墨都にいらっしゃったら、私がおもてなしします。」

松下牧野の心は残念さでいっぱいだった。

田口優里はさらに言った。「私と野井北尾のことで、以前はご心配をおかけしました。」

松下牧野もこれ以上何も言えず、ただ「これからは安全に気をつけて。前にも言ったけど、何かあったら、いつでも連絡してください」と言った。

松下牧野との面会の後、他の患者たちへの引き継ぎも終わり、田口優里は東京を離れる準備をした。

下村青葉と鈴木元男がそのニュースを聞いたとき、二人とも驚いた。

驚きの後、二人ともこれは良いことだと思った。

去ってくれるなんて良かった、できればこの先二度と会わないでほしい。

しかし松下晴彦も治療のために墨都に行くと聞いて、二人は落ち着かなくなった。

松下牧野と田口優里の接触を減らすため、二人は相談した後、鈴木元男が自ら松下牧野に電話をかけ、松下晴彦を墨都に送ると申し出た。

松下牧野は「必要ない、心配だから自分で様子を見に行く」と言った。

鈴木元男も心配で、急いで「じゃあ私も一緒に行きましょう。何かあったときに手伝えますから」と言った。

松下牧野はそれを許可した。

出発の前日、田口優里は午前中に松下晴彦の治療を終え、その後松下牧野は松下晴彦の退院手続きをして、専用の搬送車で彼を連れて行った。

田口優里は最後に患者たちの治療を行い、心配で注意事項を全て再度説明した。

仕事が終わると、彼女は東京病院を去ることになった。

去る前に、漢方科と腫瘍外科がそれぞれ彼女を食事に招待し、送別会を開いた。

これまでどの研修医もこのような待遇を受けたことはなかった。

田口優里が予定より早く戻ってくると知って、墨都第二病院の友人たちは皆喜んだ。

ただ、彼らが予想していなかったのは、田口優里が戻ってきたのはいいが、お腹が大きくなって戻ってきたことだった。

以前のことについては、知っている人もいれば知らない人もいた。

しかし今回田口優里が手続きに来たとき、野井北尾が全行程に付き添い、二人の関係は言うまでもなかった。