第307章 顔の表情がとても精彩に富む

田口優里は診療記録を持って脳神経外科に行った。

田村若晴は手術があり、田口優里に手術台で鍼灸を使って止血できるかどうか見てほしいと頼んだ。

田口優里は口実を作って漢方科から抜け出した。

彼女は戻るころには松下晴彦がすでに退院しているだろうと思っていた。

田村若晴に会うと、彼女は病室から出てきたところだった。明日手術を受ける患者がいて、彼女は様子を見に行ったのだ。

「優里ちゃん」田村若晴は彼女の腕を取った。「ちょうど良かった、あなたを探そうと思っていたところよ」

野井北尾から電話があり、田口優里と話すように言われていた。

田村若晴もちょうどそのつもりだった。

二人は勤務時間中にサボって、こっそりと空いているVIP病室に行った。

病室は簡素なスイートルームで、二人は外側のソファに座った。

田村若晴は田口優里に温かい牛乳を渡した。「32号室のおばあさんがくれたの。私の義理の息子のおかげで、あなたに飲ませてあげるわ」

田村若晴は田口優里がお腹の中に男の子を宿していると直感し、いつも義理の息子という言葉を口にしていた。

田口優里は笑って受け取った。

田村若晴は顎を支えながら彼女を見た。「松下牧野と会ったけど...どうだった?」

田口優里は牛乳を一口飲んでから、田村若晴を睨みつけた。「あなたが小説を読みすぎだって言ったでしょ、まだ認めないの」

田村若晴はくすくす笑った。「言っておくけど、小説なんてものじゃないわ。現実の生活の中には、小説よりもドロドロしたことがあって、小説家でさえ書けないようなことがあるのよ」

田口優里は頭を下げた。「晴美、実は、私は心の中であなたに感謝しているの...」

もし田村若晴が突然思いついて、大胆な発想をしなければ、おそらく彼女は永遠に松下牧野が自分の父親だということを知らなかっただろう。

このことで田口優里が特に喜んだわけではないが。

しかし少なくとも、彼女は自分が田口義守の実の娘ではないことを知った。

そして自分が受けた不公平な扱いにも理由があったのだ。

自分がこの理由で田口義守に偏愛されなかったと知り、田口優里はずっと楽になった。