田村若晴は思った、先祖が発明した言葉は本当に的を得ている。
悪霊が消えない。
どこに行っても、岡田羽一に出会うなんて?
彼女はただ気晴らしに出かけただけなのに、これじゃあ、この男を見たら、気が晴れるどころか、気分が更に憂鬱になってしまう。
田村若晴は彼を一瞥し、まっすぐ前を見て歩こうとした。
すると、後ろから岡田信二が声をかけた。「兄さん?どうしてここに?」
岡田羽一は淡々と返事をし、視線はまだ田村若晴に向けられていた。「どういうことだ?」
「いや、何でもないよ」岡田信二は慌てて説明した。「この美女が帰るところだから、送ると言ったんだ」
岡田羽一はようやく岡田信二を見た。「彼女が彼氏がいると言ったのを聞かなかったのか?」
彼の声は冷たく、耳に入ると、なぜか威厳を感じさせた。
岡田信二は元々彼を少し恐れていたが、今はもっと何も言えなくなり、ただ「わかりました」と言った。
田村晴美は踏み出そうとした足を止めた。
彼女は振り返って岡田信二を見た。「車はどこ?」
岡田信二は驚いた。「何?」
田村若晴は彼に微笑んだ。「送ってくれるんじゃなかった?」
岡田信二は大喜びした。「そうそうそう…」
彼は急に岡田羽一を見て、顔に困惑の色が浮かんだ。
一方は今目をつけた美女、もう一方はめったに店に来ない従兄弟。
もし本当に岡田羽一を無視して田村若晴を送っていったら、後で説明に困るだろう。
案の定、岡田羽一は顔を引き締め、明らかに不機嫌そうだった。
しかし岡田信二はあまりにも田村若晴のタイプが好きで、仕方なく恐る恐る岡田羽一を見た。「兄さん、兄さん、自分で中に入って楽しんでて、僕はまず送って…」
岡田羽一は突然手を伸ばした。「車のキー」
岡田信二は驚いて、反応できなかった。「どの車のキー?兄さんの車のキーは僕が持ってないよ」
言い終わってから思い出した。「そうだ、兄さんは海外から帰ってきたばかりで、運転免許はまだ書き換えてないよね?運転できるの?」
免許証が書き換えられていないため、岡田信二は知っていた。岡田羽一はガレージに車を持っているが、運転したことはない。
それに最近岡田羽一は墨都にいるのに、どこから車が出てくるのだろう?
岡田羽一は彼をバカを見るように見た。「お前の車のキーだ」