お風呂から上がると、野井北尾は彼女の体を丁寧に拭き、寝室へと抱えて戻った。
田口優里は指先までしびれ、目を開けることもできず、このまま眠ってしまいたいと思った。
しかし野井北尾は彼女を放してはくれず、依然として熱い口づけを彼女の唇の端に落とし、低い声で彼女の名を呼んだ。「優里ちゃん……」
田口優里は目を閉じたまま、軽く「うん」と返事をした。
「優里ちゃん」野井北尾は自分が少し卑劣だと認めた。田口優里が最も心地よい状態のときにこのことを言うのは。「もう一度結婚しよう、いいかな?」
でも彼には仕方がなかった。
田口優里のあの目を見ていると、彼女がほんの少しでも抵抗や悲しみの表情を見せれば、彼はもう口にできなくなるのだ。
今、田口優里は快楽の後で、頭の反応は鈍くなっているはずだ。
野井北尾はこの機会に彼女に要求を出した。
実際、野井北尾も田口優里が同意するという確信は持てていなかった。
以前、田村若晴が田口優里にうつ傾向があると言ったとき、野井北尾はもう再婚の話をするつもりはなかった。
彼はとても望んでいたけれど。
しかし彼は田口優里を困らせたくなかった。
どうせ二人は一緒にいるのだから。
彼は田口優里の心の結び目を解きたかった。彼女が完全に彼を信じ、一生を彼に委ねてもいいと思うときに、改めて提案するつもりだった。
しかし彼も恐れていた。
なぜか分からないが、心の中には漠然とした不安があった。
以前はあの結婚証明書に何の意味も感じなかったが、今ではあの赤い小冊子が彼に安心感を与えてくれると思うようになっていた。
なぜなら彼は田口優里がどんな人か知っていたからだ。手続きをして、結婚して、証明書を手に入れれば、責任と義務が生まれる。
今、彼は名分もなく、心は不安だった。
松下牧野は彼が田口優里に名分を与えていないと言ったが、実際は田口優里が彼に名分を与えていなかった。
彼はまだ、もし田口優里が承諾しなければどうしようかと考えていた。
そして、田口優里が静かに一言言うのを聞いた。
「いいよ」
野井北尾は自分が幻聴を聞いたのではないかと思った。
彼は信じられない思いで田口優里を見つめた。
田口優里はまだ目を閉じていて、目尻には赤みがあった。さっき彼に激しくキスされて、生理的な涙が流れ出たからだ。
鼻先も赤くなっていた。