田口優里は携帯を下げた。「電話では説明しきれないわ。夜になったら、帰ってから聞いてみるわ」
「ちゃんと聞いてね」田村若晴は言った。「何かあったらすぐに話し合って、全部心の中に溜め込まないで」
田口優里は頷いた。「わかってるわ、自分が辛い思いをするようなことはしないから」
話している間に、患者の家族が田口優里を探しに来た。
田村若晴は彼女が忙しくなったのを見て、仕方なく立ち去った。
彼女がここに来たのは田口優里に会いたかっただけだった。時々、田口優里のあの穏やかで淡々とした雰囲気は、何も言わなくても彼女をとても心地よくさせるのだった。
彼女と岡田羽一のことについては、本当は田口優里に話すつもりはなかった。
彼女自身、心の中では確かに不快だった。
でも、こういうことなら、以前なら絶対に田口優里に愚痴をこぼしていただろう。
今は、もっと楽しいことを田口優里と共有したいと思っていた。
以前、田口優里にうつ傾向があると言われたが、彼女自身も、それが思い違いであることを願っていた。
しかし、そういう疑いがある以上、不愉快なことで田口優里を悩ませたくなかった。
少なくとも、彼女が岡田羽一と話をはっきりさせ、真相を確かめ、一体どういうことなのかを見極めるまで待つべきだった。
その時になって、別れるか続けるかの決断をしてから、田口優里に話そうと思った。
田口優里は5時過ぎまで忙しく働いていた。
忙しくしていると、余計なことを考える時間はなかった。
やっと座って一口水を飲んだ時、携帯が鳴った。
彼女はすぐに出た。「もしもし?」
「優里ちゃん」
田口優里はハッとした。
三井和仁からの電話だった。
言われてみれば、二人はしばらく連絡を取っていなかった。
前回電話したのは、三井和仁が彼女に野井北尾と武田佐理が会っている写真を送ってきた時だった。
「優里ちゃん」三井和仁は笑いながら口を開いた。「久しぶりだね、最近どう?」
田口優里は急いで答えた。「元気よ。あなたは?足の具合はどう?毎日運動してる?」
三井和仁は言った。「してるよ。君が言ったように適度な運動をしてる。あまり無理はしないようにね」
「そう、徐々に進めていくのがいいわ」
「わかったよ、全部君の言う通りにするよ」