奥田梨子は木村工場長たちに挨拶をして、辻本剛司に続いて別の車に乗り込んだ。
「奥田梨子、大丈夫?」
辻本剛司はここ数年、信行が好きなのは奥田梨子だと思っていたが、最近起きた出来事で、自分は間違っていたかもしれないと感じていた。
信行がずっと愛していたのは涼宮陽子だった。
「とても元気よ、本当に」奥田梨子は心からの笑顔を見せた。「いつか、恋人同士が結ばれる日が来たら、私は彼らを祝福するわ」
辻本剛司は彼女の言葉が本心だと感じ、彼女のために嬉しく思った。彼は微笑んで、「前向きになれて良かった。男なんてどこにでもいるさ」と言った。
夜7時過ぎ、車はホテルに到着した。
奥田梨子は辻本剛司におやすみを言い、カードでドアを開けて部屋に入った。
電気をつけると、ソファに座って休んでいる男性が突然目に入り、彼女は驚いて、急いでドアを閉めた。
畑野志雄はその深い瞳を開き、かすれた声で「帰ってきたね」と言った。
「どうして広口市に来たの?いや、どうやって入ったの?」
畑野志雄はソファに寄りかかり、腕をソファの肘掛けに無造作に置いていた。
白いシャツの上のボタンが数個外されていた。
全体的に慵懶でありながら気品が漂っていた。
彼はドアのところにいる女性を見て、「カードで入ったんだ。このホテルも畑野家の経営だよ。患者の手術のためにこちらに来たんだ」と言った。
彼はこれで奥田梨子の質問に答えたことになる。
「こっちに来なよ。そこに立ってて何をしているの?食べたりしないよ」
食べるとしても、お腹がいっぱいになってからだ。
そうでなければ、どこからエネルギーが出るだろうか。
畑野志雄は怠そうに「梨ちゃん、こっちに来て俺と食事をしよう」と言った。
テーブルの上には二箱の不健康な食べ物、フライドチキン、フライドポテト、そしてコーラ一本が置かれていた。
奥田梨子は「………」
彼がこんなものを食べるとは思わなかった。
彼女は靴を脱いで、彼の方へ歩いていった。
「私はもう食べないわ。今夜はたくさん食べたから」
畑野志雄は彼女のこの返事を聞いて、無理強いはせず、手を洗ってソファに戻り、食べ始めた。
彼の食事の様子は見ていて心地よかった。
「昼食は口に合ったかい?」
「うん、とても美味しかったわ。ありがとう」