秦志が蘇青のことを話し終えると、奥田梨子はポケットから携帯を取り出して時間を確認した。もうかなり遅い時間だった。
彼女はポケットに両手を入れて、「おやすみ、明日も仕事だから」と言った。
彼女はきびきびとした足取りで立ち去った。
畑野さんだけが椅子に座ったまま残され、「……」
今夜は彼を部屋に招待するべきだったのではないか。
同じベッドで寝て。
抱き合って、キスして、あんあん言い合うべきだったのでは?
畑野志雄は、素早く立ち去る妖艶な後ろ姿を見つめ、梨ちゃんの態度を吟味した。
彼女は嫉妬していた。
*
朝、天気は良かった。
奥田梨子は今朝、赤い原付バイクで通勤する予定だった。
出勤前に、彼女は賀来蘭子のドアをノックした。
賀来蘭子は鳥の巣のような髪のまま、ドアを開けた。「やぎ座、今日は金運が良くて、仕事運も良好、昇進や昇給のチャンスがあるわよ」
「いいね、10時には起きて何か食べてね。私、仕事行くから」
賀来蘭子はうなずき、ドアを閉めてベッドに戻って眠りについた。
奥田梨子は靴を履き替え、片手にヘルメットを抱えて出発した。
赤い原付バイクは車の間をすり抜け、颯爽と走り去った。
川木信行はこの時、海外にいて、そこは夜だった。
彼は携帯の中の、奥田梨子が原付バイクで車の間を走り抜ける写真を見て、一瞬立ち止まった。
彼はさらに写真をスクロールし、二枚目の写真は奥田梨子と畑野志雄が公園に座っている写真だった。
彼の目が冷たく光った。
祖母は死ぬ前、彼に言ったことがある。自分の選択を後悔するなと。
川木家で、川木信行を最もよく理解していたのは、常に賢明な川木大奥様だった。
川木信行は奥田梨子と畑野志雄の写真を削除した。
彼は奥田梨子の単独の写真だけを残した。
後悔するのは弱い男だけだ。
川木信行の骨の髄まで染み付いた冷淡さと略奪的な本性は変わらない。
川木大奥様がいた時は、彼は自制していた。
奥田梨子はファイルをオフィスに持ち込み、置いた後、出ようとしたところで鈴村烈に呼び止められた。
彼は椅子に寄りかかり、奥田梨子を見つめた。
彼の父は昨夜、深夜に電話をかけてきて、昨晩の畑野志雄との食事会について話し合った。
この件で少し厄介なのは山田青子の考えだった。
「奥田秘書、財務部長を呼んでください」