奥田梨子がクラブから家に帰ってきたとき、バーベキューの香りがした。
「いい匂い!」
賀来蘭子は手にバーベキューの串を持ち、奥田梨子に向かってハハハと笑いながら言った。「梨さん、手を洗って来てバーベキュー食べましょう。たくさん買ってきたんですよ」
「うん、ちょっと待って」
奥田梨子は手を洗い、部屋着に着替えて、歩いて行ってバーベキューを取って食べた。
「今夜は家にいるの?」賀来蘭子は目配せしながら笑って彼女に尋ねた。
「うん、家にいるよ」奥田梨子の言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女は畑野志雄からのメッセージを受け取った。
畑野志雄、【梨ちゃん、お腹すいた、まだ仕事終わらない】
奥田梨子はメッセージを見て口角が上がった。彼が空腹なはずがない、おそらく重要なのは後半の「まだ仕事終わらない」という部分だろう。
畑野先生は今日一日中忙しかったようで、今になってようやく彼女にメッセージを送る時間ができたのだ。
奥田梨子はバーベキューを数本食べ、賀来蘭子に向かって言った。「蘭子、今夜は一人で留守番してね、私は病院に行くわ」
「病院に何しに行くの?どこか具合悪いの?」賀来蘭子は突然理解したように、「あぁ、畑野さんに会いに行くのね、行ってらっしゃい」
奥田梨子は彼女の頬をつまみ、立ち上がって冷蔵庫の方へ向かった。
彼女は喉に良い甘草茶を煮出していて、畑野志雄に持っていこうと思っていた。
奥田梨子は白いスポーツウェアに着替えて、魔法瓶を持って車で出かけた。
彼女が病院に着いたときはすでに少し遅い時間で、看護師に畑野志雄の診察室がどこにあるか尋ねた。
「畑野先生はちょうど退勤されましたよ」
看護師は奥田梨子を一目見て、本当に美人だと思った。これが畑野先生の噂の彼女なのだろうか。
「ありがとう」
奥田梨子は突然自分がちょっとバカだと感じた。彼女は畑野さんにサプライズを与えようと思っていた。
まさか愛情たっぷりの喉に良い茶を持ってきたのに、彼がすでに退勤していたとは。
このバカなこと、絶対に隠しておかなければ。
絶対に隠しておく。
畑野志雄に知られてはいけない。
*
畑野志雄は奥田梨子が彼を探しに来たことを知らなかった。彼は仕事を終えてホテルに戻り、会社の仕事に忙しくしていた。