「私はあの夜、川木社長が元妻と車の中でいちゃついているのを目撃したわ」
畑野眉子はトイレの個室で用を足している時、外で二人の女性が話し合う声が聞こえてきた。
「車内エッチ?まあ、遊び人ね」
二人の女性は笑いながらトイレを出て行った。
畑野眉子はトイレットペーパーを取り、拭いてから個室を出て手を洗い、眉をひそめて考え込んだ。
どういう意味だろう?
川木社長というのは自分の息子のことなのか?それとも他の人?
もしそうなら、奥田梨子は二股をかけていることになる!
彼女はその二人の女性の話を本当に信じているわけではなかったし、もしかしたら彼女たちは別の人について話していたのかもしれない。
畑野眉子はこのことを心に留めておき、個室に戻った。
今日はお茶会が終わり、ちょうど山田青子たちとここで食事をすることになっていた。
個室では、川木敏子が鈴村烈の左隣に座っていた。
鈴村烈がお茶を注ごうと手を伸ばした時、川木敏子は素早く先に急須を取った。
二人の手が触れ合った。
川木敏子は恥ずかしさで耳が少し赤くなった。
鈴村烈は口元を少しひきつらせ、手を引っ込めた。
「鈴村さん、お茶を飲みますか?私が注ぎましょうか」川木敏子は急須を持ち上げた。
鈴村烈はその様子を見て、断った。「いいえ、私は白湯を飲みます。ありがとう」
彼は別のコップの白湯を手に取って飲んだ。
川木敏子は一瞬落胆した様子を見せた。
山田青子は自分の空の茶碗を差し出し、微笑みながら言った。「敏子、私に一杯注いでくれる?ありがとう」
川木敏子は心の中で感謝した。山田青子は彼女のフォローをしてくれたのだ。「はい」
畑野眉子が個室に入ると、ちょうど注文した料理が運ばれてきた。
この新しくオープンしたレストランの料理は悪くなかったが、畑野眉子は心ここにあらずで食べていた。
彼女の頭の中では「車内エッチ」という言葉がぐるぐると回っていた。
彼女の息子は冷静な性格で、そのような恥ずかしいことをするタイプには見えなかった。
*
森口病院。
遠野文恵は今日目を覚まし、ようやく元気になってきた。彼女は今、奥田梨子が言及した3ヶ月後に電話をかけることを思い出した。
「剛司、あなたに言いたいことがあるの。梨が何か困ったことに遭遇しているんじゃないかと思うの」