奥田梨子は顔を背け、別の方向を見た。
彼女はもう畑野志雄を見なくなった。
畑野志雄は唇を引き、瞳の色が冷たくなった。
宴会場のライトが明るくなった瞬間、奥田梨子は赤い唇を引き締め、必死に手を引き抜こうとした。
畑野志雄はライトが点いた瞬間、結局奥田梨子の手を放した。
彼はこのように彼女を追い詰めたくなかった。
彼は姿勢を正し、鼻先に漂っていた彼女の香水の香りが徐々に遠ざかっていった。
彼は先ほど奥田梨子の手をしっかりと握っていた手を握りしめ、彼女の小さな手を握っていた感触を掴もうとしているようだった。
丸5年だ。
彼は彼女を思い、髪が白くなるほど恋しく思っていた。
奥田梨子はしばらく呆然としていた。
彼女の手の温もりはすでに去っていた。
森田雄大がグラスを持って奥田梨子を呼びに来た。彼は彼女を業界の人々に紹介するつもりだった。