本当のことを言おう。
奥田梨子はお金に困っていない。
この数年間、オレンジ芸能事務所は文田大輔の管理下で稼いだお金も奥田梨子の生活には十分だった。
そして畑野志雄もお金に困っている人ではない。
二人の考えは一致していた。それは森田綺太とは一切関わりたくないということだ。
あの狂人はすでに死んでいるにもかかわらず。
「私は森田財団の株式を受け取るつもりはありません。信託基金も娘に受け取らせるつもりはありません」
これらのものは奥田梨子にとって熱すぎて手に持てないものだった。
森田夫妻は実際、息子のこのような手配に少し驚き、心の中で疑問を抱いていた。
彼らには森田綺太という一人息子しかいなかった。もし息子が本当にいなくなったら、彼が持っている森田財団の株式を誰に与えるべきか、彼らも関与しないだろう。
則木先生は革のバッグから開封されていない二通の手紙を取り出した。「この手紙は森田綺太さんから奥田梨子さんへのもので、もう一通は森田奥様へのものです」
森田奥様は手紙を受け取るとすぐに開いて読んだ。
【お母さん、あなたがこの手紙を読んでいるとき、私はもういないでしょう。あなたはお父さんとまた子供を作ることを考えてもいいし、もしお父さんがダメなら、外で誰かを見つけてもいい】
森田奥様、「……」犬の口からは象牙は出てこない。
森田雄大は顔を曇らせながら森田奥様にティッシュを渡した。
一方、奥田梨子は冷淡に手紙を開いて読んだ。
【能力があるなら森田財団を奥田財団に変えてみろよ。お前が株式を欲しくないことは知っている。ふふふ、ざまあみろ。俺が死んだら、お前は俺のために喪に服さなければならない。お前と畑野志雄を怒らせてやる】
奥田梨子は手紙を握りしめ、怒りが込み上げてきたが、発散できなかった。
まるで森田綺太の手紙の内容を証明するかのように、ちょうどその時、畑野志雄の携帯電話が鳴った。
奥田梨子は手を伸ばして畑野志雄の膝の上に座っていた奥田黛子を抱き寄せ、彼に電話に出るようにした。
畑野志雄は木場左近からの電話だと分かると、応答ボタンを押した。
電話の向こうの木場左近は簡潔に言った。「森田綺太が事前に録音を残していました。今、森田財団の広報や各メディアプラットフォームでこの録音が流れています」