金城源太は山田青子を休憩室に連れて行き、彼女に熱いお茶を注いだ。
「クルーズ船はもう出航してしまった。今は戻れないよ」
「わかってる」
金城源太は携帯を取り出し、楽田礼子に直接電話をかけようとした。
山田青子は緊張して指を絡ませながら、「源太さん、今夜私が落札したイヤリング、ママは喜んでくれるかな?」
「喜ぶんじゃないかな」金城源太は実際、年配の女性が何を好むのかよくわからなかった。彼は眉をひそめ、携帯に電波がないことに気づいた。
「おかしいな、電波がないよ」
山田青子はそれを聞いて、緊張していた心がすっと軽くなった。
*
2階の個室。
奥田梨子はボディガードに手を押さえられながらサインをしていた。彼女は大人しく従っていた。
サインするならすればいい。
どうせサインしても、この契約は無効だ。
彼女は他人の字を模倣することができるのだから。
そのとき、突然ドアをノックする音がした。
森田澤人は眉をひそめた。
ドアの外にはボディガードがいるはずだから、心配する必要はないだろう。
ノックの音は続いた。
森田澤人はボディガードの一人に確認するよう指示した。
ボディガードがドアを少し開けると、クルーズ船のスタッフの制服を着た男性がいた。
しかし、そのスタッフは仮面をつけていた。
「何の用だ?」
「お客様、こちらはご注文のお酒です」
酒を間違えて届けたようだ。
ボディガードは「酒は注文していない」と言った。
彼がドアを閉めようとしたとき、手で押し止められた。
ドアが勢いよく押し開けられた。
仮面の男が個室に入ってきて、彼の後ろには同じく仮面をつけた数人が続いた。
森田澤人は彼らを見て眉をひそめ、「君たちは誰だ?」と尋ねた。
奥田梨子は振り向いて見ると、誰かわかった。
畑野さんが来たのだ。
彼女は手の中の携帯を見ると、電波が復活していた。畑野さんが処理したようだ。
彼女の携帯には位置情報装置が付いていて、電波さえ復活すれば畑野志雄は彼女を見つけることができる。
畑野志雄はまず奥田梨子を見て、彼女が無事なのを確認すると、目の奥の冷たさが和らいだ。
彼は椅子を引き、奥田梨子の隣に座った。
彼はテーブルの上の契約書に目を通し、内容を理解した。