第256章 深谷市に戻る

梨志財団の社員たちは、社長が会社に来るというニュースを受け取り、全員が驚愕した。

彼らの中には、すでに7年間会社に勤めているにもかかわらず、この謎めいた社長に一度も会ったことがない人もいた。

会社の上層部はみな会議室に集まった。

普段はたまにサボりがちな社員たちも、今日は特に真面目で慎重だった。

涼宮梨花は今日、梨志財団に初出勤する日だった。

人事部のお姉さんが熱心に会社の各部門を案内し、「私たちの会社の食堂は2階にあります」と説明した。

涼宮梨花はうなずき、丁寧に「ありがとうございます」と言った。

エレベーターのドアが開くと、威厳のある数人の男性が入ってきた。

人事のお姉さんと涼宮梨花は思わず後ろに下がり、彼らのためにスペースを空けた。

涼宮梨花はふと顔を上げ、中央に立って入ってきた男性を見て、一瞬固まった。

その男性は背が高く、真っ黒なシャツを着ていて、以前空港で見かけた男性だと気づいた。

まさかここで再び彼に会うとは思ってもいなかった。

涼宮梨花は思わず顔を伏せ、それ以上見ないようにした。

エレベーターが8階に到着し、男性たちが出て行くと、人事のお姉さんは小声で「さっきの青いスーツを着て、少し巻き毛の方が私たちの会社の会長のマックスです」と言った。

涼宮梨花はうなずいたが、他の人たちについては好奇心を持って尋ねることはなかった。

エレベーターのドアが再び閉まり、上へと昇り続けた。

人事のお姉さんは明るい性格で、「あなたの名前に『梨』の字があるなんて、私たちの会社と縁がありますね。実は5年前は今の社名ではなかったんですよ」と笑いながら言った。

涼宮梨花は真剣にうなずき、「会社の資料を調べたので、社名変更のことは知っています」と答えた。

人事のお姉さんは微笑んだ。今回の新人はなかなか良さそうだ。

*

会議が終わった後。

会長室にて。

マックスは顔を上げて向かいの男性に尋ねた。「急にメルボルンに引っ越してきたのか?今夜歓迎会でもするか?」

畑野志雄は軽く首を振った。「歓迎会は結構です」彼は手に持っていた地図をテーブルの上に置き、マックスの前に押し出して、そこに記されたマークを指さした。「今日来たのは別の重要な件があるからです。チームを帝都市に派遣して、白砂海のこのエリアを買収するよう努めてください」