この時、メルボルンにいる涼宮梨花は奥田梨子にメッセージを送り終えると、しばらくぼんやりとそのメッセージを見つめた後、デスクの上の私物を片付け始めた。
彼女と林田麻美はすでに退職届を出しており、明日が最後の出勤日だった。
彼女は今夜、特に残業して仕事の引き継ぎをすべて済ませるつもりだった。
最近「社長夫人」についての噂話で、彼女と林田麻美は会社の笑い者になっていた。
涼宮梨花は慎重に考えた末、退職することを決めた。ここに留まっても出世の余地はなく、むしろこれらの噂に押しつぶされて息もできなくなるだろう。
「梨、本当に辞めるの?」同僚の小林が彼女のデスクを通りかかり、片付けている様子を見て思わず言った。「実は、この騒ぎが過ぎれば、みんなも話題にしなくなるよ」
涼宮梨花は淡く微笑んで頷いた。「ありがとう、でも私はもう決めたの」
騒ぎが過ぎれば確かに話題にはならないだろうが、彼女の職位にはおそらく上昇の余地がなく、一生テストエンジニアのままでいたくなかった。
小林はため息をついた。「君は能力のある人だ。これからの前途が明るいことを祈るよ」
涼宮梨花は微笑んだ。「ありがとう」
親友の林田麻美が袖をまくって近づいてきた。「梨、片付け終わった?」
「もうすぐ。ちょっと待って。あなたは?」涼宮梨花は答えた。
林田麻美は涼宮梨花の物をボックスに詰めるのを手伝った。「私はもう終わったわ」
涼宮梨花は一通りチェックし、私物が残っていないことを確認した。「ちょっとトイレに行ってくる。駐車場で会おう」
彼女がトイレに行くと、思いがけずテスト部門の同僚たちが彼女のことを笑っているのが聞こえた。
「涼宮梨花が辞めるって、彼女の仕事はあなたが担当するの?」ある同僚が別の同僚に尋ねた。
「そう、私が一時的に担当することになって、毎日忙しくて死にそう。今頃刑務所にいる鈴木淑子は後悔してるかしら。偽物の社長夫人にへつらって、最後には自分が刑務所行きになるなんて」
「涼宮梨花はいい人だと思ってたけど、まさか社長夫人になりたいなんて夢見てたなんて。彼女は元々取締役秘書だったのに、テスト部門に異動させられたのも何か悪いことをしたからかもね」
「鈴木淑子って本当に運が悪いわね、偽物の足を持ち上げるなんて」