「ありがとうございます」古川真雪は相手に軽く頷いた。
個室の前に立っていた二人のボディーガードは、支配人と真雪を見ると、軽く腰を曲げて礼をし、左右に分かれてドアを開けた。
個室内の笑い声はドアが開くと同時に途切れ、中に座っていた三人の貴婦人は揃って、優雅に部屋に入ってくる真雪を見つめた。
「大変申し訳ありません、お待たせしてしまって」
彼女の素直な謝罪に、黄という姓の貴婦人の一人が慈愛に満ちた笑顔を見せた。「いいえ、私たちもちょうど着いたところよ」
河野おばさんも同じく笑いながら同調した。「そうよ、わざわざ私たちのような年寄りの相手をしてくれるなんて、嬉しいわ」
唯一、吉田という姓の貴婦人だけが黙っていた。彼女の口元には薄い笑みが浮かび、精巧な化粧を施した眉目の間からは、何気なく真雪への軽蔑の色が漏れていた。
「河野おばさま、こうしてお時間を作っていただけて、私こそ感謝しています」言い終えると、彼女は視線を吉田貴婦人に向け、穏やかな口調で挨拶した。「吉田おばさま、お久しぶりです。お元気でしたか?」
吉田という姓の貴婦人は吉田善絵といい、白川思花の母親の親友であり、彼女の夫は長谷楓に騙された投資家の一人だった。
真雪がまだ思花と仲違いする前は、善絵とも何度も顔を合わせており、相手はいつも彼女に対して非常に友好的で優しかった。
今、突然このように態度が大きく変わり、何度か誘っても全く取り合ってもらえなかったのは、おそらく彼女と思花の関係悪化により、善絵が彼女に対して偏見を持つようになったからだろう。
「まあね」善絵はそっけない口調でこの二言を吐いた後、黙り込んだ。
河野おばさまと黄姓の貴婦人は顔を見合わせ、笑いながら言った。「さあ、みんな揃ったことだし、始めましょうか」
個室内には麻雀卓が設置されており、暇なとき、貴婦人たちは麻雀を数回打って時間を潰し、その後マッサージを受けたり、美容ケアをしたりしてリラックスするのが常だった。
真雪は善絵が意図的に自分に会わないようにしていることを知っていたため、河野おばさまと黄姓の貴婦人に頼んで彼女を誘い出してもらうしかなかった。
善絵に頼みごとがあるため、他の二人の貴婦人も真雪の依頼を受けて、数局を通して三人は常に手を抜いて善絵に上がらせていた。