彼女は身をかがめてブルースを抱き上げ、ソファに座ると、手近にあったリモコンを取ってテレビをつけた。
テレビはエンターテイメントニュースチャンネルに合わせられていた。スイッチを入れるとすぐに、女性アナウンサーの甘く澄んだ声がリビングに響き渡った。
「女優の田中糸叶さんが今日、SNSで有名モデルの夏目宣予さんとの2ショット写真を投稿し、『ついに美人さんと一緒に仕事ができました。楽しい共演でした』というコメントを添えています。
田中糸叶さんは最近、田中監督の新作映画のヒロイン役に決定したばかりです。この投稿を受けて、ネットユーザーからは夏目宣予さんが同作品の第二ヒロインを務めるのではないかという憶測が広がっています。
モデル界で華々しい活躍を見せている夏目宣予さんが映像業界に進出するとなれば、どんな驚きをもたらしてくれるのか、今後の展開に注目です。」
古川真雪は口をとがらせ、リモコンでチャンネルを変えた。ちょうどそのとき、久保清森がキッチンから盆を持って出てきた。
彼はテーブルに盆を置いた。その上には温かい水の入ったグラスと、切りそろえられたフルーツが載っていた。
「夏目宣予が田中監督の新作映画に出演するって?」
「うん」清森は真雪の隣に座った。
真雪は盆からグラスを取り、少し頭を後ろに傾けて温かい水を一口飲んだ。
温かい液体が喉を通って素早く腹部へと流れ込み、先ほどまで飲み過ぎで少し不快感のあった胃と腹を温めた。
「清森、私はよく考えるの。もし私があなたを誘ってボランティアに行かなかったら、あるいはあの日私が病気にならずに一緒に児童養護施設に行っていたら、結果は違っていたんじゃないかって。
たぶん今頃私たちは仲の良い夫婦になっていたかもしれないし、宣予も今のように誰もが知る有名モデルにはなっていなかったかもしれない」
真雪は何度も後悔し、頭の中で「もしも」という言葉が何度も浮かんだ。でも彼女にはタイムマシンがない。どれほど後悔しても、時間を巻き戻すことはできなかった。
「真雪、昔の僕は君が想像しているほど宣予のことを好きじゃなかったんだ」
彼は否定しなかった。確かに純粋で無邪気な宣予に好感を持ち、付き合うことも考えたことがあった。