相手のスタジオは、彼女が電話で予約してくるのを予想していたかのように、すでに時間を手配していた。今日の午後3時、スタジオ内での面会だった。
古川真雪は半日ほど犬と遊んで過ごし、その犬に「ブルース」という名前をつけた。英語名はBluesだ。
彼女は10分早く内田麟空のスタジオに到着し、麟空の秘書に迎えられた。秘書は麟空が会議中で、3時にならないと彼女に会えないと伝えた。
真雪が少し待った後、麟空の秘書は友好的な笑顔で彼女を麟空のオフィスへと案内した。
秘書がオフィスのドアを開けると、真雪は中から爽やかな笑い声が聞こえてきた。
内田麟空は友人と談笑していたが、外から入ってくる真雪を見ると、すぐにソファから立ち上がって迎えに行った。「申し訳ありません、古川様、お待たせしました」
「いいえ、私が早く着いただけです」
麟空は笑顔で頷き、まだ背を向けてソファに座っている友人に言った。「クライアントが来たけど、席を外す?」
彼の口調には、相手に席を外してほしいという意図はまったく感じられず、むしろ軽い冗談めいた調子だった。
ソファに座っていた男性がゆっくりと立ち上がった。相手が振り向かなくても、その背の高い凛々しい後ろ姿だけで、真雪は彼が誰なのかわかった。
久保清森がゆっくりと振り向き、視線は麟空を通り過ぎて驚きの表情を浮かべる真雪の顔に落ちた。
彼は薄い唇を少し上げ、高貴で優雅な笑みを浮かべた。「いや、大丈夫だ」
麟空は真雪を見て、唇の端に何か企んでいるような笑みを浮かべながら尋ねた。「古川様はどう思われますか?」
「お任せします」
「では、どうぞこちらにお座りください」
真雪は清森の向かいのソファに座り、麟空は二人の間の一人掛けソファに座った。
彼は向かい合って座る二人を面白そうに見て、大笑いしたい衝動を抑えながら優しく言った。「古川様、私はすでにその2階建ての建物を見てきました。レストランのデザインについて何か特別なご要望はありますか?」
真雪は心の中でため息をついた。彼女が朝方スタジオに電話したばかりなのに、麟空はもうレストランを訪れていたのだ。清森はこのレストランのことを…やはり彼女以上に気にかけているようだ!
その後の1時間、三人の話題はレストランのデザインに集中した。