言うまでもなく、この動画は綾部久辰の別荘に設置されたカメラで撮影されたものだ。
久辰の口ぶりからすると、彼はネットに上がった動画を見てすぐに自分に電話をかけてきたようだ。となると、動画をアップロードした人物は彼ではないはずだ。
久辰の家のセキュリティシステムにハッキングできるということは、相手のIT技術はかなりのものに違いない。
次の瞬間、彼女の頭に一つの推測が閃いた……もしかして、三年以上も匿名でメッセージを送ってきた人物だろうか?
「今、みんなが憶測しているのは、君が夏目宣予を突き落としたのではないかということだ」
これは予想通りのことで、古川真雪の唇の端には冷ややかな皮肉の笑みが浮かんだ。
「わかったわ」
彼女の何事もないような態度に綾部久辰は驚いた。「それだけ?」
普通なら、真雪はこの時点で少なくとも何か説明するべきではないのか?
真雪は答えず、逆に尋ねた。「宣予はどう?」
「軽い脳震盪だ」
実際、真雪は心の底から宣予を尊敬していた。目的を達成するためなら手段を選ばず、自分を傷つけることさえ厭わないなんて。
「やっぱり宣予という女は善からぬ目的で来たんだ。こんな大事件を引き起こすなんて」
真雪は電話の向こうから聞こえてくる久辰の不満げな呟きを聞いた。結局、この事件は彼の誕生日パーティーで起きたことで、宣予の状態を心配する一方で、多少は気分を害していることは確かだった。
パーティーが台無しになったことへの不満を感じ取り、真雪は軽く笑いながら慰めた。「次回、誕生日パーティーを改めて開くわ。早く休みなさい」
「うん、姉さんも早く休んでね」
電話を切ると、真雪は真剣に運転している久保清森の方を向いた。美しい曲線を描く赤い唇の端に奔放な笑みを浮かべ、「方向転換して、会社の看板モデルを見舞いに病院へ行きましょう」
「今、病院の外にはたくさんの記者が集まっているはずです」
「別の通路から入れるんじゃなかった?」
清森は横目で自分を見つめる真雪に気づき、話す時の表情に茶目っ気のある笑みを浮かべた。
確かに病院には別の通路があった。病院の多くのVIP患者たちは診察を受けるところを人に見られたくないため、病院は特別にVIP患者のための特別通路を設けていた。