第209.210章:独り身が長すぎて少し寂しくなった

この夜、古川真雪はまたしても眠れなかった。

何錠か睡眠薬を飲み、やっと眠りについたものの、思いがけず春の夢を見てしまった。

夢の中では彼女と久保清森が結婚した夜のことだった。当時の彼女は清森のことを八年もの間想い続け、ようやく結婚式の日を迎えたのだから、部屋に戻るとすぐに重い婚礼衣装を脱ぎ捨て、明かりを消し、躊躇なく清森に飛びついた。

そして……二人の関係は決定的なものとなった。

夢から目覚めた時、真雪は虚ろな目で天井を見つめ、なかなか我に返れなかった。

ようやく正気に戻ったものの、心の中には何とも言えない喪失感が広がっていた。心の奥底では夢から覚めたくなかったようだ。

真雪は自分が一度離婚した女性であるにもかかわらず、今日元夫とベッドを共にする春の夢を見たことが、あまりにも恥ずかしく思えた。きっと独り身の期間が長すぎて寂しくなっているのだろうか?

よく眠れなかったせいで、真雪の精神状態はあまり良くなかった。彼女がレストランに到着すると、副支配人の越智均策は彼女の青白い顔色を見て、昨夜の飲み過ぎがまだ抜けていないのだと思い、声をかけた。「社長、少し事務所で休まれたほうがいいですよ。」

真雪は自分でコーヒーを入れ、均策の心配そうな視線に気づいて微笑んだ。「うん、そうするわ。ありがとう、頼むわね。」

彼女は均策の肩を軽くたたき、コーヒーカップを持って事務所に戻った。

午前中はぼんやりとした状態で過ごし、閉店時間が近づいた頃、均策が事務所に来て久保清森が食事に来たことを伝えると、やっと彼女はぼんやりとした思考から抜け出し、我に返った。

レストランは毎日午前10時半から営業を開始し、午後2時半から5時までの2時間半は休業、5時から9時まで通常営業、9時以降はキッチンを閉鎖して新規の注文や客の受け入れを停止するが、9時前に来店した客は9時半まで滞在できることになっていた。

清森がレストランに来たのは午後2時半近くで、均策は真雪に清森の接客をするかどうか尋ねに来たのだった。

「うん、しっかりもてなして。」

「かしこまりました。では失礼します。」

「うん。」

均策が出て行ってすぐ、事務所のドアが再びノックされた。

真雪は頭を下げたままスマホでSNSをチェックしており、顔を上げずに「どうぞ」と言った。