久保清森は口元を緩め、顔に少し不真面目な表情を浮かべた。「母さんは誰よりも、僕が君の前でこんな頼りない姿を見せるのを喜んでいると思うよ」
「……!」確かにそうかもしれない、古川真雪は少し言葉に詰まった。
彼女の困った表情に清森は思わず笑みを浮かべ、愛おしそうに真雪の頭を撫でながら言った。「唐田秘書に『神の手を持つ男』の映画を買ってきてもらったんだ。一緒に見ない?」
「うん」
「じゃあ、ちょっと待っていて。部屋に取りに行ってくるから」
「うん、行ってらっしゃい」
窓の外では雨がしとしとと降り続け、ガラス窓を叩いてぽつぽつと音を立てていた。
真雪は椅子の背もたれに寄りかかり、横目で窓の外の霧雨に包まれた街を見つめた。道行く人々は傘を差して足早に歩き、車は通りを走り抜けては路肩の水たまりを跳ね上げていた。
ここ数日で積み重なった悲しみの感情が、彼女をして目の前のこの街に対して何故か否定的な感情を抱かせていた。
おそらくこれは、彼女がこの街を訪れた数多くの機会の中で、初めて何の親しみも感じない瞬間だった。
耳元に軽い足音が聞こえ、真雪は映画を取りに行った清森が戻ってきたことを悟った。
彼女の視線は窓の外のある一点に留まったまま、静かな口調に少し物悲しさを滲ませて言った。「清森、明日帰国しましょう。もう帰りたいの」
清森は大きな液晶テレビの前で足を止め、窓際に座る真雪に視線を向けた。
彼女はホテルの白いバスローブを身にまとい、海藻のように美しい長い髪を肩にかけていた。その精巧な桃花眼には朝霧のように柔らかな霞がかかり、絵画のような眉目には淡い寂しさが隠されていた。
窓の外の鉛色の空を背景に、彼女の周りには思わず人の心を痛めるような悲しい雰囲気が漂っていた。
「うん、君の言う通りにしよう。一緒に家に帰ろう」
真雪は軽く頷いただけで、それ以上は何も言わなかった。
雨脚はだんだんと強くなり、雨粒がガラス窓を打つ音もますます大きくなっていった。
真雪と知り合って何年も経つが、これは清森が彼女のこんなに落ち込んだ姿を見るのは初めてかもしれなかった。
かつて彼女の父親が亡くなった時も、彼女は自分の前では常に強さを見せていた。もしかしたら一人の時には何度も泣いていたのかもしれないが、自分を心配させないように、悲しみの感情を一切見せなかったのだ。