久保清森は古川真雪の後ろについて一緒に音楽室を出た。整った薄い唇に優しい笑みを浮かべながら、「真雪は本当に思いやりがあって、良妻賢母だね」と言った。
褒め言葉は彼の口から自然に出てきたが、どういうわけか、真雪はいつも彼の言葉に何か深い意味があるように感じていた。
「勘違いしないでよ。前に私が病気の時にあなたが看病してくれたから、今回はあなたが病気だから見殺しにできないだけよ」
彼女の説明に清森の口元の笑みはさらに明るくなった。本来は真雪をからかうつもりはなかったが、彼女のこの言葉を聞いて、急に悪戯心が湧き上がってきた。
「さっき君が言ったじゃないか、君が助けに来てくれなかったら、俺は家で横たわったままになっていたかもしれないって。真雪、君は俺の命の恩人だよ。恩返しのしようがないから、この身を捧げるしかないな!」
彼の声は少しかすれていて、言い表せないような興奮を含んでいた。
真雪は急に足を止め、振り返って、まるで幽霊でも見たかのように彼を一瞥して言った。「頭がおかしくなったの?」
清森は彼女に向かって笑いながら、「いいや、とても冴えてるよ!」
彼の顔に浮かぶ明るすぎる、何か悪意を感じさせる笑顔に、真雪は肩を震わせ、急いで足早に歩き始め、ぶつぶつと呟いた。「おかしいわ!清森がこんなバカみたいになるなんて」
清森は彼女の後ろについて歩きながら、口元に明るく輝く笑みを浮かべ続けた。
真雪がキッチンで料理をしている間、清森はずっとカウンター席に座り、片手で顎を支え、彼女の動きに合わせて視線を動かし、病人がベッドで休むべきだという自覚は全くなかった。
彼の視線に落ち着かなくなった真雪は、右手に持った包丁を力強くサツマイモに叩きつけた。サツマイモは真っ二つに割れ、包丁とまな板がぶつかり合い、耳障りな音を立てた。
一刀落とすと、彼女は手にした包丁を放り投げ、いらだった表情で言った。「清森、そんな春を待つバカみたいな顔で私を見つめるのやめてよ!」
清森はまばたきをして、とても無邪気に、キレかけている真雪を見つめながら言った。「僕は春を待つバカみたいな顔で見てないよ、むしろ情熱的だと思うけど」
真雪は再び包丁を手に取り、少し持ち上げて、恐ろしい形相で清森を脅した。「部屋に戻って休みなさい!」