「先に病院へ行って、あなたの古い恋人と旧交を温めてきなさい。私は明日行くから」
久保清森は親しげに彼女の頭を撫でた。「実は古い友人との再会よりも、新しい恋人と種まきする方が好きなんだ」
彼は「古い友人」という言葉を強調して、自分と夏目宣予との関係を否定した。
そして意味ありげに視線を落として古川真雪の平らなお腹をちらりと見た。その目に込められた暗示は明らかだった。
「あなたの言う数億円のプロジェクトには、今のところ興味がないわ」
「じゃあ、数億円のプロジェクトは一旦置いておいて、未来の久保夫人になることに興味はないかな?」
真雪は首を振った。「それにもあまり興味がないみたい」
「僕の彼女になってくれるなら、毎日数億円のプロジェクトを持ってくることを約束するよ!毎日!絶対に毎日満足させてあげる」
清森は「毎日」という言葉を特に強調した。その口調は、まるで怪しいおじさんが幼い少女を誘惑するようだった。
つまり、結局また数億円のプロジェクトの話に戻ってきたということ?
真雪は白目を向け、不機嫌そうに彼に早く帰るよう促した。「もういいわ、帰ってもらって構わないわ」
彼女としては、清森がこれ以上居座れば、その場で彼女と「数億円のプロジェクト」を始めかねないと思ったのだ。
清森は口元を緩め、空気を読んで彼女をからかうのをやめた。「じゃあ先に行くよ。僕の提案をよく考えておいてね」
真雪は手を振り、早く出て行くよう合図した。
清森は思わず笑みを漏らした。ソファから立ち上がり、真雪の前を通り過ぎようとしたとき、突然身をかがめて彼女の額に軽くキスをした。
「先に行くね。また後でね」
清森が真雪の家のドアを開けると、外では唐田浩良が彼を待っていた。
唐田は彼に向かって軽く頭を下げ、敬意を込めて口を開いた。「社長、出版社の方から夏目さんが契約した本が数日のうちに各書店で発売されるとのことです」
清森は片手をポケットに入れ、落ち着いた足取りで唐田の前を歩きながら、彼の報告を聞いて眉をひそめた。
宣予はその後おとなしく振る舞っていたため、清森は彼女のことを全く気にかけておらず、まして彼女の一挙手一投足に注意を払うよう人に命じることもなかった。
思いがけないことに、宣予は芸能事務所を通さず、直接出版社と出版契約を結んでいたのだ。
「本の内容は?」